ハミルトンの正準方程式
ハミルトンの正準方程式とは、一般化された座標と運動量を基本変数とした運動方程式です。ハミルトンの正準方程式は、一般化座標を $q_r$ とすると、以下の形式で表されます。
$$\frac{dq_r}{dt}=\frac{\partial H}{\partial p_r}$$$$\frac{dp_r}{dt}=-\frac{\partial H}{\partial q_r}$$
ここで、$p_r$ は一般化運動量で、ラグラジアン $L$ により以下で定義されます。
$$p_r\equiv\frac{\partial L}{\partial\dot{q}_r} -①$$
ハミルトニアン
ハミルトニアン $H$ は、以下で定義されます。
$$H(q_1,\cdots,p_1,\cdots,t)\equiv\sum_rp_r\dot{q}_r-L(q_1,\cdots,\dot{q}_1,\cdots,t) -②$$
ハミルトニアンは、時間 $t$ が陽に含まれない場合、以下の特徴を持ちます。
-
- 保存力場では力学的エネルギーを表す
- 力学的エネルギーは保存される
1. 保存力場の力学的エネルギー
ラグラジアンは運動エネルギー $T$ とポテンシャルエネルギー $V$ により、$L=T-V$ で表され、さらに保存力の場合はポテンシャルは座標のみの関数となるため、①より
$$p_r=\frac{\partial T}{\partial\dot{q}_r}$$
運動エネルギーを $T=\sum m\dot{q}_r^2/2$ とすると、
$$\sum_rp_r\dot{q}_r=\sum_r\frac{\partial T}{\partial\dot{q}_r}\dot{q}_r=m\dot{q}^2=2T$$
従って②により、
$$H=\sum_rp_r\dot{q}_r-L$$$$=2T-(T-V)=T+V$$
ハミルトニアンは運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和(系の力学的エネルギー)を表していることが分かります。
2. 力学的エネルギーの保存
ハミルトニアンが時間を陽に含まない場合、
$$\frac{dH(q_r,p_r)}{dt}=\sum_r\frac{\partial H}{\partial q_r}\frac{dq_r}{dt}+\sum_r\frac{\partial H}{\partial p_r}\frac{dp_r}{dt}$$
この式は正準方程式を代入することにより、0になることが分かります。
$$\frac{dH}{dt}=0$$
これにより、ハミルトニアンは時間を陽に含まない場合は一定であること、つまりエネルギーが保存されることが導かれます。
正準方程式の導出
ハミルトンの正準方程式の導出は、ルジャンドル変換を使う方法と、ハミルトンの原理から導く方法の2つがあります。
ルジャンドル変換での導出
ラグラジアンは一般化座標とその時間微分(速度)を基本変数としますが、ルジャンドル変換を使って、一般化座標の時間微分を、より本質的な物理量である一般化運動量に置換えます。まず、②の微小変位を取ります。
$$\delta H=\sum_r\dot{q}_r\delta p_r+\sum_rp_r\delta\dot{q}_r-\sum_r\frac{\partial L}{\partial q_r}\delta q_r-\sum_r\frac{\partial L}{\partial\dot{q}_r}\delta\dot{q}_r -③$$
$$\frac{d}{dt}\Big(\frac{\partial L}{\partial\dot{q}_r}\Big)=\frac{\partial L}{\partial q_r}$$
に①を代入すると、
$$\frac{dp_r}{dt}=\frac{\partial L}{\partial q_r}$$
これを③の第3項に代入し、①を③の第4項に代入すると以下になります。
$$\delta H=\sum_r\dot{q}_r\delta p_r-\sum_r\dot{p}_r\delta q_r -(1)$$
また、ハミルトニアンの微小変位は次のように書けるため、
$$\delta H(p,q)=\sum_r\frac{\partial H}{\partial p_r}\delta p_r+\sum_r\frac{\partial H}{\partial q_r}\delta q_r -(2)$$
(1)と(2)の各項を比較すると、ハミルトンの正準方程式が得られます。
ハミルトンの原理からの導出
$$\delta\int_1^2Ldt=0$$
に②を代入します。この形式は変形されたハミルトンの原理とも$$呼ばれます。
$$\delta\int_1^2\Big(\sum_rp_r\dot{q}_r-H\Big)dt=0$$
このとき、$q_r$ についての変分法のオイラーの方程式は、
$$\frac{d}{dt}\frac{\partial}{\partial\dot{q}_r}\Big(\sum_rp_r\dot{q}_r-H\Big)=\frac{\partial}{\partial q_r}\Big(\sum_rp_r\dot{q}_r-H\Big)$$$$\frac{dp_r}{dt}=-\frac{\partial H}{\partial q_r}$$
一方、$p_r$ についての変分法のオイラーの方程式は、
$$\frac{d}{dt}\frac{\partial}{\partial\dot{p}_r}\Big(\sum_rp_r\dot{q}_r-H\Big)=\frac{\partial}{\partial p_r}\Big(\sum_rp_r\dot{q}_r-H\Big)$$$$0=\dot{q}_r-\frac{\partial H}{\partial p_r}$$
これらより、ハミルトンの正準方程式が得られます。