相転移
相とは、物質の中の境界面を持つ均質な部分を指します。一般には、固相(固体)、液相(液体)、気相(気体)などが知られていますが、同一物質の固相にも複数の相(物性変化)を持つことが知られています。
相転移(phase transition)とは、ある相から別の相に移ることです。例えば、沸騰では潜熱が必要になる一方、磁性体のキュリー点付近では潜熱を伴わない連続的な変化が見られます。
相転移は、転移により起こる種々の量の不連続の度合いによって分類されます。以下は、ギブズの自由エネルギーなどの熱力学ポテンシャルの振る舞い(微係数の連続性)に基づいて分類された相転移について説明します。
- 1次相転移(First-Order Phase Transition)
- 特徴:自由エンタルピーの1階微分(体積、エントロピー)に不連続が生じる相転移。
- 潜熱:相転移の際に系が外部と熱の出入り(潜熱)を行う。
- 例:融解(固体 $\leftrightarrow$ 液体)、気化(液体 $\leftrightarrow$ 気体)。相転移温度では2つの相が共存。
- 2次相転移(Second-Order Phase Transition)
- 特徴:自由エンタルピーの2階微分(定圧比熱、熱膨張率)に不連続が生じる相転移。
- 潜熱:潜熱は発生しない。
- 例:強磁性体のキュリー温度における磁気相転移、超伝導転移、超流動転移。
1次相転移
1次相転移(1種相転移)では、蒸発熱や融解熱が発生し、体積 $V$(密度)やエントロピー $S$ が不連続になります。2つの相が平衡状態にある場合、自由エンタルピー(ギブス関数)$G$ は両相間で連続になります。
$$G_1(T,p)=G_2(T,p) -①$$
体積とエントロピーは自由エンタルピーの1次の微係数なので、第1次相転移は自由エンタルピーの1次の微係数が不連続となる相転移と考えることができます。
$$dG=-S\,dT+V\,dp$$$$V=\Big(\frac{\partial G}{\partial p}\Big)_T$$$$S=-\Big(\frac{\partial G}{\partial T}\Big)_p$$
代表例は、一定圧力下での氷の融解や水の沸騰です。潜熱 \(Q\) は、同じ温度・圧力におけるエントロピー差を用いて以下のように表せます。
$$\Delta H=T\Delta S -②$$
第1次相転移では、クラペイロンの式が成り立ちます。
クラペイロンの式
クラペイロンの式とは、1次相転移における、物質がある温度で気液平衡の状態にあるときの蒸気圧と、蒸発に伴う体積の変化と蒸発熱を関係を表す式です。一般のクラペイロンの式は以下で表されます(③の導出)。
$$\frac{dp}{dT}=\frac{\Delta H}{T\Delta V} -③$$
-
- \(\Delta H\):相転移に伴うエンタルピー変化(潜熱、蒸発熱)
- \(\Delta V\):転移前後の相のモル体積の差
- \(T\):絶対温度
- \(p\):相境界上の圧力
③の導出
2相が平衡共存する相境界とし、①の両辺を微分し、\(dG=Vdp-SdT\) を使うと、
$$V_1dp-S_1dT=V_2dp-S_2dT$$$$(V_2-V_1)dp=(S_2-S_1)dT$$$$\frac{dp}{dT}=\frac{\Delta S}{\Delta V}$$
相転移の潜熱が②であることを用いると③が得られます。
$$\frac{dp}{dT}=\frac{\Delta H}{T\Delta V}$$
クラウジウス・クラペイロンの式
液体から気体への相転移(気化)や、固体から気体への相転移(昇華)の場合、以下の2つの良い近似が成り立ちます。
- 気体の体積が液体の体積に比べて圧倒的に大きい:$\Delta V \approx V_{\text{gas}}$
- 気体が理想気体従うとみなせる:$V_{\text{gas}}=RT/p$ ($R$ は気体定数)
これらより、クラウジウス・クラペイロンの式が導かれます。この式は、温度が上がると蒸気圧が指数関数的に急激に増大することを意味しています(④の導出)。
$$p(T)=p_0\exp\Big(-\frac{\Delta H_{\mathrm{vap}}}{R T}\Big) -④$$
④の導出
仮定により、
$$\Delta V\simeq\frac{RT}{p}$$
これを③のクラペイロンの式に代入し、積分すると④が得られます。
$$\frac{1}{p}\frac{dp}{dT}=\frac{\Delta H_{\mathrm{vap}}}{RT^2}$$$$\ln p=-\frac{\Delta H_{\mathrm{vap}}}{RT}+C$$
2次相転移
2次相転移(2種相転移)では、体積 $V$(密度)とエントロピー $S$ が連続になります。2つの相が平衡状態にある場合、体積とエントロピーは両相間で以下の関係にあります。
$$V_1(T,p)=V_2(T,p) -③$$$$S_1(T,p)=S_2(T,p) -③$$
一方、それらの2階微分に関係する熱力学量が不連続になります。代表的な熱力学量は、定圧比熱 \(C_p\)、熱膨張率 \(\beta\)、等温圧縮率 \(\kappa\) です。
$$C_p\equiv\Big(\frac{\delta Q}{dT}\Big)_p=T\Big(\frac{\partial S}{\partial T}\Big)_p -④$$$$\beta\equiv\frac{1}{V}\Big(\frac{\partial V}{\partial T}\Big)_p -⑤$$$$\kappa_T\equiv-\frac{1}{V}\Big(\frac{\partial V}{\partial p}\Big)_T -⑥$$
2次以上の高次の相転移では、エーレンフェストの式が成り立ちます。
1次相転移との比較
1次相転移と2次相転移をまとめます。
| 項目 | 1次相転移 | 2次相転移 |
| 自由エンタルピー | 1階微分(エントロピー、体積)が不連続 | 1階微分は連続だが、2階微分(比熱、体積膨張率、圧縮率等)が不連続 |
| 潜熱 | あり | なし |
| 相の共存 | 転移温度で2つの相が共存する(例:水と氷) | 共存状態はなく、系全体が一様に変化する |
| 熱力学関係式 | クラペイロンの式 クラウジウス・クラペイロンの式 |
エーレンフェストの式 |
| ゆらぎと相関距離 | 相関距離は比較的短い(有限) | 臨界点で相関距離が無限大に発散(強いゆらぎ) |
| 普遍性 | 物質(化学的性質など)ごとに依存する | 物質が異なっても、次元や対称性が同じなら同じ普遍性をもつ |
| 代表的な例 | 融解(固液)、気化(液気)、昇華、構造相転移など | 強磁性体のキュリー転移、超伝導転移、超流動転移など |
エーレンフェストの式
エーレンフェストの式とは、2次以上の相転移における、定圧比熱、熱膨張率、等温圧縮率などの関係を表す式です。エーレンフェストの式は以下で表されます。
- 第1のエーレンフェストの式(比熱と体積膨張率の関係)(⑦の導出)$$\frac{dP}{dT}=\frac{\Delta C_P}{TV\Delta\beta} -⑦$$
- $C_P$:定圧比熱
- $\beta$:体積膨張率
- $V$:モル体積(または系全体の体積)
- 第2のエーレンフェストの式(体積膨張率と圧縮率の関係)(⑧の導出)$$\frac{dP}{dT}=\frac{\Delta\beta}{\Delta\kappa_T} -⑧$$
- $\kappa_T$: 等温圧縮率
- ⑦と⑧より、$$\Delta C_p=TV\frac{(\Delta\beta)^2}{\Delta\kappa_T} -⑨$$
⑦の導出
③の体積の関係式について、温度と圧力の微小変化を取ると、
$$S_1(T+dT,p+dp)=S_2(T+dT,p+dp)$$$$\Big(\frac{\partial S_1}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial S_1}{\partial T}\Big)_pdT=\Big(\frac{\partial S_2}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial S_2}{\partial T}\Big)_pdT$$$$\Big[\Big(\frac{\partial S_1}{\partial p}\Big)_T-\Big(\frac{\partial S_2}{\partial p}\Big)_T\Big]dp=-\Big[\Big(\frac{\partial S_1}{\partial T}\Big)_p-\Big(\frac{\partial S_2}{\partial T}\Big)_p\Big]dT$$
④とマクスウェルの関係式 $(\partial S/\partial p)_T=-(\partial V/\partial T)_p$ を使うと⑦が得られます。
$$\Big[\Big(\frac{\partial V_1}{\partial T}\Big)_p-\Big(\frac{\partial V_2}{\partial T}\Big)_p\Big]dp=\frac{C_{p1}-C_{p2}}{T}dT$$$$\frac{dp}{dT}=\frac{C_{p1}-C_{p2}}{TV(\beta_1-\beta_2)}=\frac{\Delta C_p}{TV\Delta\beta} \to⑦$$
⑧の導出
③の体積の関係式について、温度と圧力の微小変化を取ると、
$$V_1(T+dT,p+dp)=V_2(T+dT,p+dp)$$$$\Big(\frac{\partial V_1}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial V_1}{\partial T}\Big)_pdT=\Big(\frac{\partial V_2}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial V_2}{\partial T}\Big)_pdT$$$$\Big[\Big(\frac{\partial V_1}{\partial p}\Big)_T-\Big(\frac{\partial V_2}{\partial p}\Big)_T\Big]dp=-\Big[\Big(\frac{\partial V_1}{\partial T}\Big)_p-\Big(\frac{\partial V_2}{\partial T}\Big)_p\Big]dT$$
⑤と⑥を使うと⑧が得られます。
$$\frac{dp}{dT}=\frac{\beta_1-\beta_2}{\kappa_1-\kappa_2}=\frac{\Delta\beta}{\Delta\kappa_T} \to⑧$$



