ファインマン図とは

/場の量子論

ファインマン図

ファインマン図(Feynman diagram)は、量子場理論における粒子の相互作用を図式化し、散乱振幅を計算するための道具です。ファインマン則に従って図の各要素を数式に置き換えることで、散乱過程の確率や散乱断面積を求められます。

ファインマン図は以下のようなメリット・特徴があります。

  • 計算の見通しが良くなり、素粒子実験の予言に広く使われている。
  • 力は粒子の交換で生じるという描像を与えてくれる。
  • 仮想粒子は、実際に捕まえられる粒子とは区別される。
基本的な構成要素

ファインマン図の線や頂点は物理的な粒子や相互作用を表します。

    1. 線:粒子
      • 実線:電子などのフェルミオン
      • 波線:光子
      • コイル状の線:グルーオン
      • 波線または破線:$W/Z$ ボソン
    2. 外線:観測される入射粒子・出射粒子
    3. 内線:観測されない仮想粒子の伝搬関数(プロパゲータ)
      運動量は一般に質量殻条件を満たさず、内部線に対応する粒子を、実際に観測される自由粒子と同じ意味で扱うことはできません。
    4. 頂点:粒子の生成・消滅・散乱など相互作用
    5. ツリー構造:ツリーレベルの摂動
    6. ループ:量子補正
時間軸の約束

図の左から右に時間が進むという描き方は慣習の1つであり、すべてのファインマン図に共通する必須のルールではありません。ファインマン図そのものには座標軸としての時間・空間を厳密に描いているわけではありません。

フェルミオン線の矢印はフェルミオン数の流れに対応する向きを示します。電子では通常、矢印は粒子の運動方向に沿い、陽電子では運動方向と逆になります。

具体例:電子同士の散乱

2つの電子が近づき、光子を1個やり取りして反発し合う過程が最も基本的な例です。片方の電子が仮想光子を放出し、もう片方がそれを吸収することで、運動量が受け渡されて進行方向が変わります。つまり、電磁気力は光子の交換として描かれます。

$$e^-+e^-\rightarrow e^-+e^-$$

この過程をファインマン図で描くと以下になります。但し、ファインマン図は物理的な粒子の軌跡そのものではありません。

左右に伸びる4本の電子線が外線で、光子が内線です。この光子は仮想粒子(virtual particle)で、途中で存在する粒子を表します。実際に観測される光子ではなく、オンシェル条件(自然単位系で $p^2=m^2$)を満たす必要はありません。

ファインマン図は、1本の線と頂点が、計算上の数式に対応している点にあります。これらを掛け合わせ、内線の運動量について積分することで、その過程が起こる確率振幅 $\mathcal{M}$ が求まります。

ファインマン則

ファインマン則は、ファインマン図の各要素を数式の因子に機械的に変換する規則です。ファインマン図を描いて因子を掛け合わせれば、散乱や崩壊の確率振幅を求めることができます。ファインマン則は、ラグランジアンから機械的に導かれます。

QEDの規則

ファインマン則は、理論により異なることがあります。以下では、QED(量子電磁力学)の例(運動量空間)を挙げ、自然単位系 \(\hbar=c=1\)、計量 \((+,-,-,-)\)、相互作用ラグランジアンを採用します。

$$\mathcal L_{\mathrm{int}}=-e\bar\psi\gamma^\mu A_\mu\psi  -①$$

要素 因子
入射 / 出射電子(外線) $u(p)\,/\,\bar{u}(p)$
入射 / 出射の陽電子(外線) $\bar{v}(p)\,/\,v(p)$
入射 / 出射の光子(外線) $\epsilon_\mu\,/\,\epsilon_\mu^*$
電子の内線(伝播関数) $$\frac{i(\cancel{p}+m)} {p^2-m^2+i\epsilon}$$
光子の内線(伝播関数)
※ファインマンゲージ
$$\frac{-ig_{\mu\nu}} {k^2+i\epsilon}$$
電子 – 光子の頂点 $-ie\gamma^\mu$

ここで、$\cancel{p}=\gamma^\mu p_\mu$ です。また、$u$ と $v$ はディラックのスピノル、$\epsilon$ は光子の偏極ベクトルです。符号や因子 $i$ の付け方は、書籍により若干異なります。

電子–光子の頂点の導出

電子 – 光子の頂点が \(-ie\gamma^\mu\) になることは、ラグランジアンから求められます。例えばQEDでは、$D_\mu=\partial_\mu+ieA_\mu$ とすると、

$$\mathcal{L}_{\mathrm{QED}}=\bar\psi(i\gamma^\mu D_\mu-m)\psi-\frac14F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}$$$$=\bar\psi(i\gamma^\mu\partial_\mu-m)\psi-\frac14F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}-e\bar\psi\gamma^\mu A_\mu\psi$$

このとき、QEDにおける基本的な相互作用は①であるため、1つの相互作用から頂点因子 $-ie\gamma^\mu$ が得られます。

$$i\mathcal{L}_{\mathrm{int}}=-ie\bar\psi\gamma^\mu A_\mu\psi$$

摂動計算の手順

以下のような電子同士の散乱を例に考えます。

$$e^-(p_1)+e^-(p_2)\rightarrow e^-(p_3)+e^-(p_4)  -②$$

1. ファインマン図を描く

入射・出射粒子を決め、指定された摂動次数に寄与する図をすべて描きます。②の電子同士の散乱の場合、以下のtチャネルとuチャネルのファインマン図を描くことができます。

  • tチャネル:$q_t=p_1-p_3$
  • uチャネル:$q_u=p_1-p_4$
2. 外線・内線・頂点に因子の割当て

スピノルや偏極ベクトル、伝播関数(プロパゲータ)、頂点因子を対応させます。

  • tチャネル:$q_t=p_1-p_3$
    1. 上側の電子線は \(\bar u(p_3)(-ie\gamma^\mu)u(p_1)\) に対応する。
    2. 下側の電子線は \(\bar u(p_4)(-ie\gamma^\nu)u(p_2)\) に対応する。
    3. 光子の内線は \(-ig_{\mu\nu}/(q_t^2+i\epsilon)\) に対応する。
    4. 散乱振幅 $\mathcal{M}$ は以下のように表されます。$$i\mathcal{M}_t=\bar u(p_3)(-ie\gamma^\mu)u(p_1)\frac{-ig_{\mu\nu}}{q_t^2+i\epsilon}\bar u(p_4)(-ie\gamma^\nu)u(p_2)$$
  • uチャネル:$q_u=p_1-p_4$
    1. 上側の電子線は \(\bar u(p_3)(-ie\gamma^\mu)u(p_1)\) に対応する。
    2. 下側の電子線は \(\bar u(p_4)(-ie\gamma^\nu)u(p_2)\) に対応する。
    3. 光子の内線は \(-ig_{\mu\nu}/(q_u^2+i\epsilon)\) に対応する。
    4. 散乱振幅 $\mathcal{M}$ は以下のように表されます。$$i\mathcal{M}_u=\bar u(p_3)(-ie\gamma^\mu)u(p_1)\frac{-ig_{\mu\nu}}{q_u^2+i\epsilon}\bar u(p_4)(-ie\gamma^\nu)u(p_2)$$
3. 運動量保存を課す

各頂点で4元運動量保存を課し、内部運動量の関係を定めます。例えば、頂点に $p,\,q,\,k$ が出入りする場合、入る運動量の和と出る運動量の和を等しく置くと、

$$p+q-k=0$$

運動量を各頂点に以下を対応させます。

$$(2\pi)^4\delta^{(4)}\Big(\sum p_{\mathrm{in}}-\sum p_{\mathrm{out}}\Big)$$

4. ループ積分と対称因子を考慮

ループがある場合は独立な内部運動量について積分し、必要に応じて対称因子やフェルミオン交換の符号を含めます。

  1. 運動量が決まりきらない閉じたループごとに以下の積分 $\int d^4k/(2\pi)^4$(ファインマン積分)を付ける。複数の独立なループがある場合には、それぞれについて積分します。$$\mathcal{M}_{\text{1-loop}}\sim\int\frac{d^4k}{(2\pi)^4}\,(\text{頂点})(\text{伝播関数})(\text{頂点})\cdots$$注意点として、ループを含む図では積分が発散することがあります。これを処理する手続きが正則化や繰り込みです。
  2. 符号と対称性因子を補う。
    • フェルミオンの閉じた輪1つにつき “−1” を掛ける。
    • フェルミオンを入れ替える場合はマイナス符号を付ける。$$i\mathcal M=i\mathcal M_t-i\mathcal M_u$$
    • 図に対称性がある場合は対称性因子 $1/S$ を掛ける。
5. 振幅を求め、観測量を計算

各図の寄与を合計して \(i\mathcal M\) を求め、散乱断面積などの計算に進みます。

  1. 散乱振幅 $\mathcal{M}$ を求める:
    • 全てを掛け合わせ、運動量保存のデルタ関数を除き、$i\mathcal{M}$ を求める。
    • 初期状態から最終状態へ複数の経路があれば、すべての過程の和をとる。$$\mathcal{M} = \mathcal{M}_{\text{tree}} + \mathcal{M}_{\text{1-loop}} + \mathcal{M}_{\text{2-loop}} +\cdots$$
  2. 散乱振幅から観測量を求める:
    • 散乱断面積:$|\mathcal{M}|^2$ に始状態の流束と終状態の位相空間を掛けて積分する。$$d\sigma\propto|\mathcal{M}|^2\,d\Phi$$
    • 崩壊幅:$|\mathcal{M}|^2$ に位相空間を掛けて積分する。

 

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