ハートリー近似
ハートリー近似とは、多電子系の波動関数を求める手法で、各電子が他の電子の平均的なクーロン場(電子雲)の中を運動する1電子問題に置き換える平均場近似(Mean Field Approximation)です。
$N$ 個の電子が全て同じ質量 $m$ と電荷 $-e$ をもち、外から受ける力のポテンシャル $V$ で表される場合、シュレディンガー方程式は以下で表されます。ここで、$r_i$ は電子の座標です。
$$H\Phi({\bf r}_1,\cdots,{\bf r}_N)=E\Phi({\bf r}_1,\cdots,{\bf r}_N) -①$$$$H=\sum_{j=1}^N\Big(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_j^2+V({\bf r}_j)\Big)+\sum_{i,j}\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r_{ij}} -②$$$$r_{ij}=|{\bf r}_j-{\bf r}_i|$$
①を直接解くのは困難であるため、系の波動関数を、次のような1個の電子の波動関数の積で表されると仮定します。
$$\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2,\cdots,{\bf r}_N)=\phi_a({\bf r}_1)\phi_b({\bf r}_2)\cdots\phi_n({\bf r}_N) -③$$
尚、ハートリー近似は単純積であり、フェルミ粒子である電子の反対称性(交換対称性)は考慮していません。反対称性を取り入れたものがハートリー・フォック近似です。
ハートリー方程式
ハートリー近似により、エネルギー期待値を波動関数について最小化する(変分原理)と、多電子シュレディンガー方程式①は1電子 $\phi_a$ の固有方程式(ハートリー方程式)を解く問題に帰着します。(④の導出)
$$H_a\phi_a({\bf r})=\epsilon\phi_a({\bf r}) -④$$$$H_a=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V_a({\bf r}) -⑤$$
は外部ポテンシャルと他の電子が作る平均クーロンポテンシャルを合わせた有効ポテンシャルです。
$$V_a({\bf r})=V({\bf r})+\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int\frac{e^2}{|{\bf r}-{\bf r}’|}\Big(\sum_{j\ne a}|\phi_j({\bf r}’)|^2\Big)d{\bf r}’ -⑥$$
④の導出
①より次の計算を考えます。
$$\braket{H}=\int\Phi^*({\bf r}_1,\cdots,{\bf r}_N)H\Phi({\bf r}_1,\cdots,{\bf r}_N)d{\bf r}_1\cdots d{\bf r}_N -(1)$$
まず、②の第1項($j=1$)について(1)を計算すると、
$$\int\phi_a^*({\bf r}_1)\cdots\phi_n^*({\bf r}_N)\Big(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_1^2+V({\bf r}_1)\Big)\phi_a({\bf r}_1)\cdots\phi_n({\bf r}_N)d{\bf r}_1\cdots d{\bf r}_N$$
この演算子は ${\bf r}_1$ を含む波動関数のみに作用し、残りの $N-1$ 個の波動関数に規格化条件を使うと、
$$=\int\phi_a^*({\bf r}_1)\Big(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_1^2+V({\bf r}_1)\Big)\phi_a({\bf r}_1)d{\bf r}_1\int|\phi_b({\bf r}_2)|^2d{\bf r}_2\cdots$$$$=\int\phi_a^*({\bf r}_1)\Big(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_1^2+V({\bf r}_1)\Big)\phi_a({\bf r}_1)d{\bf r}_1 -(2)$$
次に、②の第2項($i=1,j=2$)について(1)を計算すると、同様に、
$$\int\phi_a^*({\bf r}_1)\cdots\phi_n^*({\bf r}_N)\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r_{12}}\phi_a({\bf r}_1)\cdots\phi_n({\bf r}_N)d{\bf r}_1\cdots d{\bf r}_N$$$$=\int\phi_a^*({\bf r}_1)\phi_b^*({\bf r}_2)\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r_{12}}\phi_a({\bf r}_1)\phi_b({\bf r}_2)d{\bf r}_1d{\bf r}_2 -(3)$$
⑥は(2)と(3)より、
$$\braket{H}=\sum_{j=1}^N\int\phi_a^*({\bf r}_j)\Big(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_j^2+V({\bf r}_j)\Big)\phi_a({\bf r}_j)d{\bf r}_j$$$$+\sum_{i\lt j}\int\phi_a^*({\bf r}_i)\phi_b^*({\bf r}_j)\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r_{ij}}\phi_a({\bf r}_i)\phi_b({\bf r}_j)d{\bf r}_id{\bf r}_j$$
ここで $\phi_a$ の項を抜き出します。最後の「$\cdots$」は $\phi_a$ が含まれない項を表します。
$$\braket{H}=\int\phi_a^*({\bf r})\Big[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_1^2+V({\bf r})$$$$+\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int\frac{e^2}{|{\bf r}-{\bf r}’|}\Big(|\phi_b({\bf r}’)|^2+\cdots+|\phi_n({\bf r}’)|^2\Big)d{\bf r}’\Big]\phi_a({\bf r})d{\bf r}+\cdots$$
この $[ ]$ の中を $H_a$ で表し、その2項目と3項目を⑥の $V_a$ と置くと⑤のハミルトニアンが得られます。
$$\braket{H}=\int\phi_a^*({\bf r})\Big(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_1^2+V_a({\bf r})\Big)\phi_a({\bf r})d{\bf r}+\cdots$$
これを変分するとハートリー方程式⓸が得られます。
自己無撞着法
自己無撞着法(SCF 、Self-Consistent Field)とは、他の電子が作る平均場を仮定して1電子方程式を解き、その結果から平均場を更新する計算を繰り返し、波動関数と平均場が互いに一致するまで反復する方法です。ハートリー近似やハートリー・フォック近似などで広く用いられます。
$\phi_a$ を求めるときには、$\phi_b\sim\phi_n$ として適当な関数の形を仮定し、それからポテンシャル $V_a$ を計算します。手順の概要は以下になります。
- 初期の波動関数を設定する
- ポテンシャル $V_a$ を計算する
- ハートリー方程式を解く
- 新しい波動関数をを求める
- ポテンシャル $V_a$ を更新する
- 収束するまで反復する


