ラーモア反磁性
ラーモア反磁性とは、古典的には原子に磁場をかけたことによる電子のラーモア運動によって生じる反磁性です。ランジュバンによって理論的に求められたため、ランジュバン反磁性とも呼ばれます。
反磁性は、物質に磁場が掛けられた際に、それを遮蔽しようとする電荷の動きにより生じます。ラーモアの定理によると、原子核の周りを回る電子に以下の角周波数(ラーモア周波数)の回転が加わり、これが反磁性を起こします。(①の導出)
$$\omega=\frac{eB}{2m} -①$$
このとき、$Z$ を原子番号、$N$ を原子密度とすると、古典論での磁気モーメント $M$ は以下で表されます。(②の導出)
$$M=-\frac{e^2NZB}{6m}\braket{r^2} -②$$
$B=\mu_0H$ と置くと、磁化率(反磁性磁化率)$\chi$ は以下で求められます。
$$\chi=\frac{M}{H}=-\frac{\mu_0e^2NZ}{6m}\braket{r^2} -③$$
①の導出
半径の円軌道に磁場が加わると、マクスウェル方程式のファラデーの法則より、
$$\oint{\bf E}\cdot d{\bf s}=-\frac{d}{dt}\int{\bf B}dS$$$$2\pi rE=-\pi r^2\frac{dB}{dt}$$
これより、磁場が $0$ から $B$ に変化したときに印可された電場 $E$ により加速される電子の速度 $v$ は、
$$m\frac{\Delta v}{\Delta t}=-eE=\frac{er}{2}\frac{\Delta B}{\Delta t}$$$$\Delta v=\frac{er}{2m}\Delta B$$
尚、この速度変化による遠心力の増加は、電子に働くローレンツ力と釣り合うため、電子の軌道の半径は一定に保たれます。
$$\Delta\Big(\frac{mv^2}{r}\Big)=\frac{2mv}{r}\Delta v=ev\Delta B$$
この運動による角周波数をラーモア周波数と呼びます。
$$\omega=\frac{v}{r}=\frac{eB}{2m}$$
②の導出
①のラーモア周波数により発生する電流 $I$ は、電子の回転数( $=\omega/2\pi$ )と原子内の電子( $q=-e$ )の数(原子番号)$Z$ により、
$$I=-eZ\frac{\omega}{2\pi}=-\frac{eZ}{2\pi}\frac{eB}{2m}$$
磁気モーメント $M$ は、電流 $I$ と半径 $\rho$ の円の面積の積で求められ、原子の密度を $N$ とすると、
$$M=IN\pi\braket{\rho^2}=-\frac{e^2NZB}{4m}\braket{\rho^2}=-\frac{e^2NZB}{6m}\braket{r^2}$$
ここで、$\braket{\rho^2}=\braket{x^2}+\braket{y^2}$ と $\braket{x^2}=\braket{y^2}=\braket{z^2}$ より以下で置き換えています。
$$\braket{r^2}=\braket{x^2}+\braket{y^2}+\braket{z^2}=\frac{3}{2}\braket{\rho^2}$$
反磁性の量子論
磁場がある場合のハミルトニアンにより、
$${\mathcal H}=\frac{1}{2m}({\bf p}-q{\bf A})^2=\frac{1}{2m}\Big(-\hbar^2\nabla^2-q{\bf A}\Big) -④$$
このとき、量子論での磁気モーメント $M$ は古典論と同じく以下で表されます。(⑤の導出)
$$M=-NZ\frac{\partial\braket{\mathcal H}}{\partial B}=-\frac{e^2NZB}{6m}\braket{r^2} -⑤$$
$B=\mu_0H$ と置くと、磁化率 $\chi$ は以下で求められます。
$$\chi=\frac{M}{H}=-\frac{\mu_0e^2NZ}{6m}\braket{r^2} -⑥$$
⑤の導出
④のハミルトニアンを計算すると、
$${\mathcal H}=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+\frac{i\hbar q}{2m}(\nabla\cdot{\bf A}+{\bf A}\cdot\nabla)+\frac{q^2}{2m}A^2$$
左辺の第2項と第3項が磁場により追加された項になります。ここで $z$ 軸方向に一様磁場 ${\bf B}=(0,0,B)$ を仮定すると、
$${\bf A}=\Big(-\frac{yB}{2},\frac{xB}{2},0\Big)$$
これによるハミルトニアンは、
$${\mathcal H}=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+\frac{i\hbar qB}{4m}\Big(x\frac{\partial}{\partial y}-y\frac{\partial}{\partial x}\Big)+\frac{q^2B^2}{8m}(x^2+y^2)$$
右辺の第2項は軌道角運動量 $L_z\sim({\bf r}\times{\bf p})_z$ に比例しており、磁場に依存しません(常磁性)。第3項を ${\mathcal H}’$ と置くとエネルギーは、
$$\braket{\mathcal H’}=\frac{q^2B^2}{8m}\braket{x^2+y^2}=\frac{q^2B^2}{12m}\braket{r^2}$$
ここで、$\braket{x^2+y^2}=2\braket{r^2}/3$ と置いています。$q=-e$ とすると磁気モーメント $M$ は以下で得られます。
$$M=-NZ\frac{\partial\braket{\mathcal H’}}{\partial B}=-\frac{e^2NZB}{6m}\braket{r^2}$$


