音波
音波(音)とは、物体が振動することで周囲の空気などの媒体(媒質)に圧力の変化(疎密)が生まれ、それが波として空間を伝わっていく物理現象です。媒質が存在しない真空では音は伝わりません。
- 縦波(疎密波)としての性質
波には横波と縦波がありますが、気体や液体の中を伝わる音波は縦波です。縦波は、媒質の振動方向と波の進行方向が同じであり、分子が押し寄せられた密な部分と、引っ張られた疎な部分が交互に連続して前方へ伝わります。 - 音の三要素
- 音の大きさ(振幅):振動の振幅が大きいほど、空気の疎密の変化(圧力変化)が大きくなり、大きな音として聞こえます。
- 音の高さ(周波数 / 振動数):1秒間に波が繰り返される回数を周波数(単位: Hz)と呼びます。周波数が高いほど高い音になります。人間の可聴域はおよそ 20 Hz 〜 20,000 Hz です。
- 音色(波形):単一のきれいな正弦波は純音と呼ばれますが、楽器や人の声などは複数の周波数成分(高調波など)が複雑に混ざり合っており、その波形の違いが音色となります。
- 音速(伝播速度)
音が進む速度 $c$ は、媒質の密度や弾性(押し返す力)によって決まります。空気中における音速は気温 $t$(°C)を用いて次の近似式で表されます。$$c=331.5+0.61t[m/s]$$- 気温 15°C の空気中: 約 340 m/s (時速約1,224 km)
- 水中: 約 1,500 m/s (密度が高く、弾性が強いため空気中より速い)
- 金属(鉄など): 約 5,000 m/s
- 波動としての共通現象
反射(山びこやエコー)、屈折(昼と夜で音の聞こえ方が変わる現象)、回折(障害物の後ろに音が回り込む現象)、干渉(音同士が打ち消し合ったり強まり合ったりする現象)といった波動特有の性質を示します。
波動方程式と音速
気体や液体中の音波は、媒質の密度や圧力が周期的に変化しながら伝わる疎密波です。$c$ を波動の伝わる速さ(音速)とすると、音波の波動方程式は以下になります(①の導出)。
$$\frac{\partial^2p}{\partial x^2}=\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2p}{\partial t^2} -①$$$$c=\sqrt{\frac{K}{\rho}}$$
ここで、$\rho$ は密度、$p$ は圧力、$K$ は体積弾性率(bulk modulus)です。導出のための前提を整理します。
-
- 連続体の運動方程式:$$\rho_0\frac{\partial v}{\partial t}=-\frac{\partial p}{\partial x} -②$$
- 変位と速度:
$\xi(x,t)$ を物質の微小部分の変位とすると、$$v=\frac{\partial\xi}{\partial t} -③$$ - 体積弾性率の定義:$$\Delta p=-K\frac{\Delta V}{V} -④$$
①の導出
断面積が $S$ 、体積が $V=S\Delta x$ の微小部分を考えます。

$x$ 軸方向の変位を $\xi$ とすると、$\Delta V$ は、$x$ での変位 $\xi(x)$ と $x+\Delta x$ での変位 $\xi(x+\Delta x)$ の差分に比例するため、
$$\Delta V=S\big(\xi(x+\Delta x)-\xi(x)\big)=S\frac{\partial\xi}{\partial x}\Delta x=\frac{\partial\xi}{\partial x}V$$
これに④を使うと、
$$\Delta p=-K\frac{\partial\xi}{\partial x}$$
この両辺を時間で2回微分して、②と③を使うと以下になります。
$$\frac{\partial^2p}{\partial t^2}=-K\frac{\partial}{\partial x}\frac{\partial^2\xi}{\partial t^2}=\frac{K}{\rho}\frac{\partial^2p}{\partial x^2}$$
断熱過程の音速
断熱過程を仮定すると、音速は比熱比 $\gamma$($=C_p/C_v$)を使って以下のように表すことができます(⑤の導出)。
$$c=\sqrt{\frac{\gamma p}{\rho}} -⑤$$
これより、圧力が高いほど音速は速く、密度が小さいほど音速が速いことが分かります。
⑤の導出
ポアソンの状態方程式より、$pV^\gamma=\alpha$(定数)。これを、$p=\alpha V^{-\gamma}$ として両辺を $V$ で微分し、
$$\frac{dp}{dV}=-\alpha\gamma V^{-\gamma-1}=-\frac{\gamma p}{V}$$
これに④を代入すると、
$$K=-\frac{\Delta p}{\Delta V/V}=\gamma p$$
これにより、①の音速に代入すると⑤が得られます。
$$c=\sqrt{\frac{K}{\rho}}=\sqrt{\frac{\gamma p}{\rho}}$$
理想気体の音速
理想気体の状態方程式:
$$ p=nRT=\rho\frac{RT}{M} $$
を使えば、音速は以下で表されます。ここで、は気体定数、$T$ は温度、$M$ は分子量です。
$$c= \sqrt{\frac{\gamma RT}{M}} -⑥$$
これより、温度が高いほど音速は速く、分子量が小さいほど音速が速いことが分かります。
音の強度
音の強度とは、単位時間・単位面積あたりに音波が運ぶエネルギーです。断面積 \(S\) にかかる力は $F=pS$ なので、単位時間あたりの仕事は $P=Fv=pSv$ となります。これを面関で割ると瞬間的な音の強度 \(I\) なので、
$$I(t)=p(x,t)v(x,t)$$
平面進行波の関係式(⑦の導出):
$$p=\rho_0cv -⑦$$
より、音の強度は以下で表されます。
$$I(t)=\frac{p(x,t)^2}{\rho_0c}$$
音圧変動を右向きに進む正弦波と仮定し、
$$ p(x,t)=p_0\cos(kx-\omega t)$$
時間平均を取ると、 $ \left\langle\cos^2\theta\right\rangle=\frac12$ であるため、音の強度の時間平均は以下で表されます。
$$\langle I\rangle = \frac{p_0^2}{2\rho_0c}$$
⑦の導出
粒子速度 \(v\) も同じく右向きに進むので、$v=v(x-ct)$ なので、
$$ \frac{\partial v}{\partial t} = \frac{\partial x}{\partial t}\frac{dv}{dx} = -c\frac{\partial v}{\partial x}$$
これを運動方程式②に代入すると、
$$ \rho_0 \left( -c\frac{\partial v}{\partial x} \right) = -\frac{\partial p}{\partial x}$$$$\frac{\partial}{\partial x} \left( p-\rho_0cv \right)=0$$
音波が存在しない平衡状態で $p=0,\,v=0$ として、積分定数を0とすると⑦が得られます。
$$p=\rho_0cv$$
ドップラー効果
ドップラー効果とは、音源(波源)や観測者が移動することで、観測者が聞く音の周波数(高さ)が本来の周波数から変化する現象です。
物理的なメカニズム
音波の周波数が変わる要因は、音源が動く場合と観測者が動く場合で仕組みが異なります。
- 音源が移動する場合(波長が変化)
音源が観測者に対し前進または後退すると、音の波長が変化します。- 前進:波長 $\lambda$ が圧縮されて短くなるため、単位時間あたりに届く波の数が増え、高音になる。
- 後退:波長 $\lambda$ が引き伸ばされて長くなるため、単位時間あたりに届く波の数が減り、低音になる。
- 観測者が移動する場合(相対速度が変化)
音源が静止していても、観測者が音源に対し前進または後退すると相対速度が変化します。- 前進:観測者から見た音の相対速度が上がるため、波を通過するペースが早くなり、高音として聞こえます。
- 後退:観測者から見た音の相対速度が下がるため、波を通過するペースが遅くなり、低音として聞こえます。
ドップラー効果の基本式
ドップラー効果の基本式と記号の定義は次の通りです。
$$f’ = \frac{V-v_O}{V-v_S} f$$
-
- $V$ : 音速 [m/s]
- $f$ : 音源が出す本来の周波数 [Hz]
- $f’$ : 観測者が聞く周波数 [Hz]
- $v_O$ : 観測者の移動速度 [m/s]
- $v_S$ : 音源の移動速度 [m/s]
公式を適用する際は、音源から観測者に向かう向きを正(プラス)の方向として軸を取ります。
- 音源が観測者に近づく場合 ($v_S > 0$):
分母が $V – v_S$ のように小さくなるため、$f’ > f$ (音が高くなる)。 - 音源が観測者から遠ざかる場合 ($v_S < 0$):
分母が $V – (-v_S) = V + v_S$ のように大きくなるため、$f’ < f$ (音が低くなる)。 - 観測者が音源に近づく場合 ($v_O < 0$):
分子に代入すると $V – (-v_O) = V + v_O$ となり大きくなるため、$f’ > f$ (音が高くなる)。



