ナッシュ交渉解
ナッシュの交渉解とは、2人の交渉ゲーム(協力ゲーム)において、交渉の妥協点がもつ性質(公理)で、以下の4つが挙げられています。
- パレート最適性
- 対称性
- 利得の尺度や原点からの独立性
- 無関係な結果からの独立性
この4つの公理を満たす妥協点は、只ただ1つ存在することをナッシュにより示されています。
尚、交渉の出発点は基準点と呼ばれます。この基準点の考え方として、交渉の決裂を想定し、最悪の場合での利得を少しでも上げるマックスミニ値などが利用されます。また、相関戦略まで含めて、互いが取りうる利得の範囲を実現可能領域と呼びます。
パレート最適性
パレート最適とは、交渉の妥協点において、あるプレイヤの利得を上げようとすると、他のプレイヤの利得が下がる状態を指します。
以下は簡単のため、プレイヤが2人(プレイヤAとプレイヤB)、戦略が2つ(戦略X,戦略Y)の場合で考えます。以下の利得行列では、各プレイヤの戦略と利得の関係を表しています。
例えば、プレイヤAが戦略X、プレイヤBが戦略Yを取る場合の戦略の組を $(X,Y)$、その場合のプレイヤAの利得を $A(X,Y)$、プレイヤBの利得を $B(X,Y)$ で表すとします。
$A\backslash B$ | $B:X$ | $B:Y$ |
$A:X$ | $A(X,X)$、$B(X,X)$ | $A(X,Y)$、$B(X,Y)$ |
$A:Y$ | $A(Y,X)$、$B(Y,X)$ | $A(Y,Y)$、$B(Y,Y)$ |
2つの戦略の組($X,X$)と($X,Y$)について、以下の関係にあるとき、($X,X$)は($X,Y$)をパレート支配すると言います。
$$A(X,X)\gt A(X,Y)$$
そして、全ての戦略の組(他の3組)の中に($X,X$)をパレート支配する戦略の組が存在しない場合、
$A(X,X)\gt A(X,Y)$ かつ $A(X,X)\gt A(Y,X)$ かつ $A(X,X)\gt A(Y,Y)$
($X,X$)はパレート最適であると言います。
対称性
対称性とは、基準点における2人のプレイヤの利得が等しく、かつ、実現可能領域がプレイヤの立場を変えても変わらない場合、交渉の妥協点での2人のプレイヤの同じ利得を得るというものです。
次の利得表の場合を考えます。
$A\backslash B$ | $B:X$ | $B:Y$ |
$A:X$ | $A=5$、$B=3$ | $A=0$、$B=0$ |
$A:Y$ | $A=0$、$B=0$ | $A=3$、$B=5$ |
この利得表を図で表すと以下になります。横軸がAの利得、縦軸がBの利得を表します。純粋戦略の場合は取りうる利得は(5、3)、(3、5)、(0、0)の3つですが、相関戦略まで含めた実現可能領域は青色の三角形で表すことができます。
実現可能領域は原点を通る45度の点線に対し対象になります。この場合は、2人のプレイヤの力関係に差はないと考えられ、このとき妥協点での2人のプレイヤの利得も等しく(対称)なると考えます。
利得の尺度や原点からの独立性
このことは、正アフィン変換からの独立性と呼ばれています。例えば、上の利得表でプレイヤAの利得を2倍して、プレイヤBの利得に5を足したとします。
$A\backslash B$ | $B:X$ | $B:Y$ |
$A:X$ | $A=10$、$B=8$ | $A=0$、$B=5$ |
$A:Y$ | $A=0$、$B=5$ | $A=6$、$B=10$ |
この場合、実現可能領域の三角形の位置や形は変わりますが、妥協点は変わらない(プレイヤAの利得は2倍、プレイヤBの利得は+5)ことを表しています。
無関係な結果からの独立性
無関係な結果からの独立性とは、交渉の基準点と妥協点以外の領域が実現可能領域から取り除かれたとしても、交渉の基準点が変わらなければ妥協点も変わらないことを指します。

