ディラック方程式とは

場の量子論

ディラック方程式とは

ディラック方程式とは、非相対論的なシュレディンガー方程式の相対論への拡張として提案されました。ディラック方程式は以下で表されます。

$$i\hbar\frac{\partial\psi}{\partial t}=(-ic\hbar{\bf\alpha}\cdot\nabla+\beta mc^2)\psi$$

左辺の括弧の中はディラックのハミルトニアンと呼ばれます。$\alpha_i$ と $\beta$ は4×4の行列で、パウリ行列

$$\sigma_0=\left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array}\right) , \sigma_1=\left(\begin{array}{cc} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{array}\right) , \sigma_2=\left(\begin{array}{cc} 0 & -i \\ i & 0 \end{array}\right) , \sigma_3=\left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array}\right)$$

を使うと以下で表されます。この行列はディラック行列(ディラック表現)と呼ばれています。

$$\alpha_i=\left(\begin{array}{cc} 0 & \sigma_i \\ \sigma_i & 0 \end{array}\right) , \sigma_1=\left(\begin{array}{cc} \sigma_0 & 0 \\ 0 & -\sigma_0 \end{array}\right)  -①$$

ディラック方程式を導く

シュレディンガー方程式は、時間成分については1階微分で空間成分については2階微分となっているため、これをローレンツ不変、つまり時間と空間の扱いを同等とするように変える必要があります。そのため、以下の式を利用します。

$$E^2=c^2{\bf p}^2+m^2c^4$$

この式を、そのまま演算子に置換えるとクライン・ゴルドン方程式が得られますが、2階の微分方程式になってしまい不都合なので、1階の微分方程式となるように工夫します。

$$E=c\sqrt{p_x^2+p_y^2+p_z^2+m^2c^2}$$

そして、以下の式が成り立つ $\alpha_i$ と $\beta$ を求めます。

$$\frac{E}{c}=\sqrt{p_x^2+p_y^2+p_z^2+m^2c^2}\equiv\alpha_1p_x+\alpha_2p_y+\alpha_3p_z+\beta mc$$

この両辺を2乗し、等しいと置くと、$\alpha_i$ と $\beta$ は2乗が1で、互いに反交換関係にあることが分かります。

$$\alpha_i^2=\beta^2=1 , \alpha_i\alpha_j=-\alpha_j\alpha_i , \alpha_i\beta=-\beta\alpha_i$$

ディラックは、この条件を満たす $\alpha_i$ と $\beta$ は少なくとも4×4の行列であることを示しました。尚、この行列は組合せは無数にあり、その中の1つがディラック行列です。

最後に各物理量を対応する演算子に置換えます。

$${\bf p} \to -i\hbar\nabla , E \to i\hbar\frac{\partial}{\partial t}$$

ディラック方程式の意味

ディラック方程式が4×4の行列で表されるということは、波動関数も4つの組で表されます。

$$\psi({\bf r},t)\equiv \left(\begin{array}{cccc}
\psi_0({\bf r},t) \\ \psi_1({\bf r},t) \\ \psi_2({\bf r},t) \\ \psi_3({\bf r},t)
\end{array}\right)$$

そして波動方程式も4つの組で表されます。

$$i\hbar\frac{\partial\psi_0}{\partial t}=-ic\hbar\left(\frac{\partial\psi_3}{\partial x_1}-i\frac{\partial\psi_3}{\partial x_2}+\frac{\partial\psi_2}{\partial x_3}\right)+mc^2\psi_0  -①$$

$$i\hbar\frac{\partial\psi_1}{\partial t}=-ic\hbar\left(\frac{\partial\psi_2}{\partial x_1}+i\frac{\partial\psi_2}{\partial x_2}-\frac{\partial\psi_3}{\partial x_3}\right)+mc^2\psi_1  -②$$

$$i\hbar\frac{\partial\psi_2}{\partial t}=-ic\hbar\left(\frac{\partial\psi_1}{\partial x_1}-i\frac{\partial\psi_1}{\partial x_2}+\frac{\partial\psi_0}{\partial x_3}\right)-mc^2\psi_2  -③$$

$$i\hbar\frac{\partial\psi_3}{\partial t}=-ic\hbar\left(\frac{\partial\psi_0}{\partial x_1}+i\frac{\partial\psi_0}{\partial x_2}-\frac{\partial\psi_1}{\partial x_3}\right)-mc^2\psi_3  -④$$

以下では、この4つの方程式の意味を考えます。

電子と陽電子

4つの波動関数の組の内、$\psi_0$ と $\psi_1$ は通常の電子、$\psi_2$ と $\psi_3$ は負の静止エネルギーを持つ陽電子(反電子)です。

電子を静止することができたと仮定し、${\bf p}=0$ と置いてみます。

$$①⇒ i\hbar\frac{\partial\psi_0}{\partial t}=+mc^2\psi_0$$

$$②⇒ i\hbar\frac{\partial\psi_1}{\partial t}=+mc^2\psi_1$$

$$③⇒ i\hbar\frac{\partial\psi_2}{\partial t}=-mc^2\psi_2$$

$$④⇒ i\hbar\frac{\partial\psi_3}{\partial t}=-mc^2\psi_3$$

上記は、①と②は正の静止エネルギーを持ち、③と④は負の静止エネルギーを持つことを表しています。

電子のスピン

電子($\psi_0,\psi_1$)と陽電子($\psi_2,\psi_4$)の組は、それぞれが電子のスピンの上下の組となっています。

ここで次の行列を定義します。

$$s_x\equiv\frac{\hbar}{2}\left(\begin{array}{cc} \sigma_1 & 0 \\ 0 & \sigma_1 \end{array}\right) , s_y\equiv\frac{\hbar}{2}\left(\begin{array}{cc} \sigma_2 & 0 \\ 0 & \sigma_2 \end{array}\right) , s_z\equiv\frac{\hbar}{2}\left(\begin{array}{cc} \sigma_3 & 0 \\ 0 & \sigma_3 \end{array}\right)$$

${\bf j}={\bf l}+{\bf s}$ と置くと、${\bf j}$ とディラックのハミルトニアンは交換関係にあることが分かります。ここで、${\bf l}$ は角運動量で、${\bf l}=-i\hbar{\bf r}\times\nabla$ となります。

$$[H,j_x]=[H,j_y]=[H,j_z]=0$$

$s_z$ の定義より、通常の電子($\psi_0,\psi_1$)と陽電子($\psi_2,\psi_4$)の組は、それぞれ$s_z$ の固有値($\hbar/2,-\hbar/2$)に相当することが分かります。

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