大規模修繕工事
マンションの大規模修繕工事とは、建築基準法で定義されている「建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕」です。主要構造部とは、壁や柱、床、はり、屋根、階段のことで、修繕とは、修繕前と同じ材料を使用して元の状態に戻すことを指します。
建物を長期に渡って維持・管理していくためには、一定の年数の経過ごとに計画的に修繕を行っていくことが重要であり、その対象となる建物の部分、修繕時期、必要となる費用等について、あらかじめ長期修繕計画として定め、区分所有者の間で合意しておく必要があります。
参考
- [国土交通省]長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン
マンションの長期修繕計画や修繕積立金の基本的な考え方等と長期修繕計画標準様式を使用しての作成方法を示すことにより、計画修繕工事の適時・適切かつ円滑な実施を図ることを目的としています。 - [国土交通省]マンションの修繕積立金に関するガイドライン
主としてマンションの購入予定者及びマンションの区分所有者・管理組合向けに、修繕積立金に関する基本的な知識を示し、修繕積立金の額の水準について判断する際の参考材料として活用することを目的としています。 - [住宅金融支援機構]大規模修繕の手引き
管理組合が施工会社や管理会社と大規模修繕工事の検討を進めていく上での基礎資料、あるいは資金計画・長期修繕計画の見直しを進めていく上での基礎資料としての活用を目的としています。
長期修繕計画
長期修繕計画は、作成時点において、計画期間の推定修繕工事の内容、時期、概算の費用等に関して計画を定めるものです。
計画の目的と考え方
長期修繕計画には以下の目的があります。
- 将来見込まれる修繕工事及び改修工事の内容、その時期、概算の費用等を明確にする。
- 計画修繕工事の実施のために積み立てる修繕積立金の額の根拠を明確にする。
- 修繕工事に関する長期計画について予め合意しておくことで、円滑な実施を図る。
長期修繕計画の前提、計画期間の設定、修繕項目の設定、修繕周期の設定、修繕積立金の額の設定に関する考え方を示します。
- 建物及び設備の性能・機能を新築時と同等水準に維持・回復させる修繕工事を基本とする。
- 足場などを設置する場合は、経済性等を考慮し、修繕工事の集約等を検討する。
- 修繕工事の実施の要否・内容等は、事前に調査・診断を行い判断する。
- 計画期間は、30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とする。
- 一定期間(5年程度)ごとに見直す。
計画期間の設定
計画期間は、30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とします。但し、マンションの仕様や立地条件等により異なるため、建物の劣化状況の調査・診断の結果を踏まえた上で、修繕工事の必要性や実施時期、工事内容等を検討する必要があります。
- 窓のサッシ等の建具の取替えや給排水管の取替えなどは、修繕周期が計画期間を上回り、計画期間内に含まれていないことがありますので、見直しの際には注意が必要です。
- 修繕工事の時期は、早過ぎると不要な修繕となりますし、遅すぎても劣化が進み計画修繕工事費を増加させます。
- 修繕工事を集約すると、直接仮設や共通仮設の設置費用が軽減できるなどの経済的なメリットが、集約を過剰に行うと、修繕積立金が一時的に不足することにもつながりますので、注意が必要です。
修繕周期の例は以下になります。
| 屋根防水 | 屋上防水 | [補修・修繕]12~15年、[撤去・新設]24~30年 |
| 庇・笠木等防水 | [修繕]12~15年 | |
| 床防水 | バルコニー床防水 | [修繕]12~15年 |
| 開放廊下・階段等 | [修繕]12~15年 | |
| 外壁塗装 | 躯体コンクリート | [補修]12~15年 |
| 外壁塗装 | [塗替]12~15年、[除去・塗装]24~30年 | |
| タイル張補修 | [補修]12~15年 | |
| シーリング | [打替]12~15年 | |
| 鉄部塗装等 | 鉄部塗装 | [塗替]5~7年 |
| 非鉄部塗装 | [清掃・塗装]12~15年 | |
| 建具・金物等 | 建具関係 | [点検・調整]12~15年、[取替]34~38年 |
| 手すり | [取替]34~38年 | |
| 集合郵便受等 | [取替]24~28年 | |
| メータボックス扉等 | [取替]34~38年 | |
| 給水設備 | 給水管 | [更生]19~23年、[取替]30~40年 |
| 貯水槽 | [補修]12~16年、[取替]26~30年 | |
| 給水ポンプ | [補修]5~8年、[取替]14~18年 | |
| 排水設備 | 排水管 | [更生]19~23年、[取替]30~40年 |
| 排水ポンプ | [補修]5~8年、[取替]14~18年 | |
| ガス・空調・換気設備 | ガス管 | [取替]28~32年 |
| 空調・換気設備 | [取替]13~17年 | |
| 電灯設備等 | 電灯設備 | [取替]18~22年 |
| 配電盤類 | [取替]28~32年 | |
| 避雷針設備 | [取替]38~42年 | |
| 情報・通信設備 | 電話設備 | [取替]28~32年 |
| テレビ共聴設備 | [取替]15~20年 | |
| インターホン設備 | [取替]15~20年 | |
| インターネット設備 | [取替]28~32年 | |
| 消防用設備 | 屋内消火栓設備 | [取替]23~27年 |
| 自動火災報知設備 | [取替]18~22年 | |
| 連結送水管設備 | [取替]23~27年 | |
| 昇降機設備 | エレベータ | [補修]12~15年、[取替]26~30年 |
| 立体駐車場設備 | 自走式駐車場 | [補修]8~12年、[建替]28~32年 |
| 機械式駐車場 | [補修]5補修、[取替]18~22年 | |
| 外構・附属施設 | 外構 | [補修・取替]24~28年 |
| 附属施設 | [取替・整備]24~28年 |
計画の周知・保管
新築マンションの場合は、分譲会社が提示した長期修繕計画(案)について、購入契約時に分譲会社からの引渡した時点で決議したものとするか、引渡し後の総会での承認をもって決議するかします。
管理組合は、長期修繕計画について、総会の開催に先立ち説明会等を開催し、その内容を区分所有者に説明することが推奨されます。長期修繕計画は、総会の決議を経て正式に承認されます。
管理組合は、長期修繕計画を管理規約等と併せて、区分所有者に配布するか、区分所有者等から求めがあれば閲覧できるように保管することが必要です。
計画の見直し
長期修繕計画は、将来実施する計画修繕工事の内容・時期・費用等を確定するものではありません。以下のような不確定な事項を含んでいるので、5年程度ごとに調査・診断を行い見直す必要があります。また、見直しには一定の期間を要することから、計画的に行うことが重要です。
- 建物及び設備の劣化の状況
- 社会的環境及び生活様式の変化
- 新たな材料・工法等の開発及びそれによる修繕周期、単価等の変動
- 修繕積立金の運用益、物価、工事費価格、消費税率等の変動
長期修繕計画の見直しの際には、設計図書や修繕等の履歴の確認、劣化診断、必要により区分所有者に対するアンケート調査等を行って、建物の劣化状況や区分所有者の要望等の現状を把握することが必要です。
修繕積立金
新築マンションの場合は、設計図書や工事請負契約書による見積書及び数量計算書等を参考にして概算を算出します。既存マンションの場合は、設計図書のほか、修繕等の履歴、劣化状況等の調査・診断の結果に基づいて概算を算出します。
計画期間に見込まれる推定修繕工事費の累計額を示し、その額を修繕積立金の累計額が下回らないように計画する必要があります。
会計処理
管理組合は、修繕積立金に関して、以下のような会計処理を行う必要があります。
- 修繕積立金は管理費と区分して経理する。
- 専用庭等の専用使用料及び駐車場等の使用料は修繕積立金として積み立てる。
- 修繕積立金の積立て方式には、一定額を積み立てる均等積立方式と、段階的に増額する段階積立方式があるが、基本的には均等積立方式が推奨される。
- 修繕積立金の使途は、標準管理規約第28条に定められた事項に限る。
工事費の算定
数量計算の方法
新築マンションの場合は、設計図書や工事請負契約による請負代金内訳書、数量計算書等を参考にして数量を算出します。既存マンションの場合は、現状の長期修繕計画、保管している設計図書、数量計算書、修繕等の履歴、現状の調査・診断の結果等を参考にして数量を算出します。
単価の設定の考え方
新築マンションの場合は、設計図書や工事請負契約による請負代金内訳書等を参考にして数量を算出します。既存マンションの場合は、過去の計画修繕工事の契約実績と調査データ、刊行物の単価、専門工事業者の見積価格等を参考にして数量を算出します。
尚、現場管理費・一般管理費・保険等の諸経費および消費税等について、上記とは別途設定する方法と、推定修繕工事ごとの総額に応じた比率の額を単価に含めて設定する方法があります。また、単価には地域差があることから、これを考慮することも重要です。
[不動産協会]長期修繕計画の作成および適正な修繕積立金の設定について
修繕積立金の設定
推定修繕工事費の累計額を計画期間の月数で除し、各住戸の負担割合を乗じて、月当たり戸当たりの修繕積立金の額を算定します。修繕積立金の積立方法は、一般的に次のものがあります。
- 均等積立方式
計画作成時に長期修繕計画の期間中の積立金の額が均等となるように設定する方式。均等積立方式による場合でも5年程度ごとの計画の見直しにより、修繕積立金の額が増加する可能性があるので留意が必要です。 - 段階増額積立方式
当初の積立額を抑え、段階的に増額する方式。但し、計画の見直しにより、当初の推定よりもさらに増加する可能性があるので留意が必要です。実現性をもった早期の引上げと均等積立方式へ誘導が推奨されます。
尚、修繕積立金の累計額が推定修繕工事費の累計額を一時的に下回るときは、一時金の負担や借入れ等の検討が必要になります。また、災害や不測の事故などが生じたときは、一時金の負担等が発生する可能性があります。
金額のチェック方法
チェックの方法見直し時において、管理組合は、修繕積立金の額をチェックする必要があります。以下はチェック項目の例です。
- 国土交通省の長期修繕計画標準様式と同様の項目と内容が記載されているか。
- 30年以上かつ大規模修繕工事が2回以上含まれる期間となっているか。
- 大規模修繕工事の周期が適切に設定されているか。
- 計画期間の推定修繕工事費の累計額より修繕積立金の累計額が上回っているか。
- 均等積立方式となっているか。
尚、長期修繕計画は以下のサイトを利用してチェックを行うことができます。
- [マンション管理センター]長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービス
概略の長期修繕計画の作成と修繕積立金の算出を行います。管理組合が長期修繕計画の見直しを行う際に、現状または見直したものと比較し、内容が適切か確認するための目安として利用できます。 - [住宅金融支援機構]マンションライフサイクルシミュレーション
今後 40年間の修繕積立金の負担額や修繕積立金会計の収支などを試算することができます。修繕積立金徴収額の見直しの必要性や大規模修繕工事の見積額の妥当性を判断の材料として利用できます。
工事の手順
大規模修繕工事の手順は以下になります。尚、大規模修繕工事を進めるにあたり、専門性や継続性の観点から、理事会とは別に修繕委員会を設けることがあります。また、施工会社などの選考プロセスを透明化・客観化するため、設計事務所など外部専門家を起用する場合があります。
現状把握・劣化診断
工事ありきではなく、修繕積立金の残高を把握したうえで長期的にどのような修繕を行うべきか、今すぐ工事を行うべきか、を検討する必要があります。有意義な劣化診断にするには、大規模修繕に利害関係のない第三者の専門機関に調査してもらう場合もあります。
予算・工事計画の検討
総会で大規模修繕工事実施の決議をとるために概算予算を検討します。工事の進め方についてには以下の2つがあります。
- 設計監理方式
管理組合が設計事務所等を選び、設計事務所が劣化状況の診断、修繕設計、施工会社選定のサポートを行う方式。 - 責任施工方式
一社の施工会社に設計・工事監理・施工を依頼する方式。
設計監理方式のほうが、客観性があり価格や品質を精査できそうですが、悪質なコンサルタントによる不正も多発しています。 どちらの方式でも任せきりではなく、提示された予算や修繕内容について管理組合が検討することが大切です。
施工会社選定
予算や工事計画の検討後、施工会社の選定に移ります。施工会社を決定する際には、複数の会社から見積をとり、比較検討をするのが一般的です。比較項目として費用のほか、施工実績・経験・財務状況・見積項目など総合的な判断が必要となります。
施工会社の選定は、工事の仕上がりに大きく影響します。適切な補修が行われていないと、手戻りが発生し、余分な費用や手間が掛かる可能性もあります。
- 劣化診断の内容を反映した適切な修繕計画になっているか。
- 不要不急な工事項目は含まれていないか。
- 設計監理方式で、談合の疑いはないか。
総会決議・工事説明会
工事の概要が決まったら、総会を開催し決議を取ります。共用部分に変更が無ければ過半数の決議で工事を発注できます。
尚、総会前に説明会を開くなど、事前に組合員の意見に耳を傾け、組合員との信頼関係を築いておくことが重要です。大規模修繕工事に前向きでない方や関心がない組合員も一定数いるため、十分な準備が必要です。
総会で決議が採れ、正式に施工会社に工事を発注したら、組合員や居住者に向けて工事説明会を開催します。工事説明会のタイミングは、工事開始の約1か月前に行われることが多く、改めて工事に関する概要や注意点、詳細なスケジュールなどを説明します。
長期間にわたる大規模修繕工事には、組合員や居住者の協力は欠かせません。とくに騒音を伴う工事や洗濯物の扱いなど、日常生活に支障が出る作業については、着工後に苦情が出ないよう、丁寧に説明し、組合員や居住者の不安や疑問を解消することが大切です。
契約・着工
総会の決議を経て、施工会社との工事請負契約・工事監理契約を締結し、着工します。このとき、仕様通りに施工が行われているかチェックする必要があります。また、着工後に追加工事で費用が発生した場合は、その金額や工法の妥当性を管理組合で判断します。
工事完了後は、請負工事契約書通りに工事が完了しているか、手抜き工事や雑な工事はないかの確認を行います。また、次回以降の大規模修繕工事を考え長期修繕計画の見直しの必要に迫られる場合もあります。
修繕項目
推定修繕工事項目は、新築マンションの場合は、設計図書等に基づいて、また、既存マンションの場合は、現状の長期修繕計画を踏まえ、保管されている設計図書、修繕等の履歴、現状の調査・診断の結果等に基づいて設定します。
- 単棟型のマンションの場合、管理規約に定めた組合管理部分である敷地、建物の共用部分及び附属施設を対象とします。
- 共用部分の給排水管の取替えと専有部分の給排水管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の給排水管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられます。
- マンションの形状、仕様等により該当しない項目、又は修繕周期が計画期間に含まれないため推定修繕工事費を計上していない項目は、その旨を明示します。
- 区分所有者等の要望など必要に応じて、建物及び設備の性能向上に関する項目を追加することが望まれます。
法定点検の結果、要是正の判定となった場合に必要となる修理や部品の交換等を速やかに行うことが重要であるため、これらの対応については、原則として長期修繕計画の推定修繕工事の対象外とすることが望ましいと考えられます。
屋上防水
屋上防水工事は、一般的に12〜15年周期で大規模修繕工事と合わせて実施されます。防水層の膨れ、ひび割れ、水たまり、雑草などが劣化のサインで、ウレタン防水(液体を塗る)、シート防水(シートを貼る)、アスファルト防水(耐久性が高い)が主な工法です。
従来の防水保証は10年が基本でしたが、今は15年や30年の保証もあります。屋上防水工事も足場が不要なケースが多いため、防水の種類・耐用年数・保証年数・劣化状況などを管理会社などを確認して、大規模修繕で防水工事を実施するのか判断しましょう。
床防水(廊下・階段・バルコニー)
マンションの床防水は、主にベランダや共用廊下で、雨水の浸入を防ぎコンクリートの鉄筋腐食(爆裂)を防止する重要な工事です。一般的には、ウレタン塗膜防水や塩ビシート防水が用いられ、耐用年数は10〜15年程度です。
外壁塗装(躯体・下地・タイル・シーリング)
下地補修
コンクリートのひび割れや外壁タイルの浮き・欠けの補修です。外壁タイルの浮きは剥落する危険性があります。コンクリートのひび割れやタイルの欠けは、今すぐ危険ではありませんが、マンションの躯体の劣化を進行させるため、足場をかける大規模修繕で合わせて実施します。
シーリング
劣化したシーリングの打ち替えや打ち増し工事をおこないます。シーリングとは、窓サッシと外壁のつなぎ目やタイルの目地などにあるゴム製の防水材です。
シーリングの劣化が進むとひび割れややせが生じ、雨漏りの原因になるため、シーリング工事で気密性を高めて防水効果を回復させます。
塗装工事
外壁やバルコニーなどの塗装工事の対象になります。塗装の方法は、マンションの築年数や塗装の劣化状況などによって異なります。既存の塗料の上から塗装する方法や既存の塗料を薬剤で剥離してから塗り替える方法があります。
鉄部塗装・建具等
外部階段や廊下の手すり、駐車場や駐輪場への扉などの鉄製部分を塗装します。鉄部は錆の発生が早く、基本的には足場がなくてもできるため、大規模修繕工事を含めて5年程度に1度塗装することが推奨されます。
給排水設備
給水管
給水管材料の主流である硬質塩ビライニング鋼管は、内部が塩化ビニルで被覆されているため、錆や腐食はほとんど発生しません。しかし、築年数が経つと継手部のネジ込み部分やバルブ廻り等で、錆・腐食が進行することがあるため、劣化診断を行い適切な修繕を行います。
排水管
排水管の耐用年数は配管の材質により30~40年程度です。築年数が経つと、詰まったり、管内の内側が腐食して漏水につながる可能性もあるので、劣化診断を行い適切な修繕を行います。とくに台所や洗面の排水管は、食材の残りカスや油脂類により腐食が早く進むことがあります。
昇降機
エレベータは、一般的に築25〜30年が交換(リニューアル)の目安で、費用は1基あたり数百万円〜1,500万円以上と高額です。故障の増加やメーカーの部品供給終了(25年目安)が計画のサインとなります。修繕には全撤去・部分リニューアル・制御盤交換の3方式があります。



