超対称代数
超対称代数(Supersymmetric Algebra / SUSY Algebra)は、ボソン(整数スピン)とフェルミオン(半整数スピン)を変換する対称性を記述するための数学的構造です。 通常の時空の対称性(ポアンカレ代数)を拡張したものになります。
超対称代数の生成子
超対称代数の生成子は以下の2つに分かれます。
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- ボソン生成子(偶数次生成子):
時空の並進演算子 $P_\mu$(運動量)やローレンツ変換の生成子 $M_{\mu\nu}$ 、通常の交換関係に従う。 - フェルミオン生成子(奇数次生成子):
超電荷(Supercharge)と呼ばれるスピノル演算子 $Q_\alpha$ 、反交換関係に従う。
- ボソン生成子(偶数次生成子):
| 生成子 | \(P_\mu\) | \(M_{\mu\nu}\) | \(Q_\alpha\) | \(\bar Q_{\dot\alpha}\) |
| 意味 | 時空並進 | ローレンツ変換 | 超対称変換 | 共役超対称変換 |
| 性質 | ボース的 | ボース的 | フェルミオン的 | フェルミオン的 |
超電荷 \(Q\) は、ボース粒子とフェルミ粒子を互いに変換します。例えば以下のようになります。
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- $Q|\text{boson}\rangle \sim |\text{fermion}\rangle$
- $Q|\text{fermion}\rangle \sim |\text{boson}\rangle$
交換子と反交換子
超対称代数の交換子と反交換子は以下になります。
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- 通常の交換子(ボソン生成子):$[A,B]=AB-BA$
- 反交換子(フェルミオン生成子):$\{A,B\}=AB+BA$
- 一般な超交換子:$[A,B\} = AB-(-1)^{|A||B|}BA$
超対称代数では生成子を偶(ボソン)と奇(フェルミオン)に分けます。これを \(\mathbb Z_2\) 次数で表すと、$|B|=0$ 、$|F|=1$ です。これより、超交換子は以下のように置き換えられます。
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- ボース–ボース:
$|A|=|B|=0$ なので、$[A,B\}=AB-BA=[A,B]$ - ボース–フェルミ:
$|A|=0,\,|B|=1$ なので、$[A,B\}=AB-BA=[A,B]$ - フェルミ–フェルミ:
$|A|=|B|=1$ なので、$[A,B\}=AB+BA=\{A,B\}$
- ボース–ボース:
ポアンカレ代数との関係
ポアンカレ代数から超対称代数へ拡張する際、ポアンカレ代数の関係式は変更されず、そのまま保持されます。その上で、フェルミオン的な超電荷 $Q_\alpha, \bar{Q}_{\dot{\alpha}}$ が生成子として追加され、それらを含む代数関係式が追加されます。
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- 偶数(Even)部分: ポアンカレ代数の生成子($P_\mu, M_{\mu\nu}$)
- 奇数(Odd)部分: 超電荷($Q_\alpha, \bar{Q}_{\dot{\alpha}}$)
| ポアンカレ代数 | 超対称代数 |
| ボース的生成子 | ボース+フェルミオン的生成子 |
| 交換子 | 交換子+反交換子 |
| リー代数 | リー超代数 |
| \([A,B]\) | \([A,B\}\) |
| 回転・並進など | 回転・並進+超対称変換 |
超対称代数がもたらす物理的帰結
- ボソンとフェルミオンのペア形成
超対称代数の同じ超多重項に属するボソンとフェルミオンは、理論上同じ質量と量子数を持つペア(超対称性パートナー)を形成します。 - エネルギーの非負性
ハミルトニアン $H = P_0$ に対する代数関係から、物理的状態のエネルギー期待値は常にゼロ以上になることが導かれます。 - 拡張された超対称性と中央電荷
超電荷が複数存在する理論($N>1$ の拡張超対称性)では、代数の右辺に中央電荷(Central Charge) $Z$ と呼ばれる項が表れます。
生成子の定義
超対称代数($N=1$)における生成子(Generators)は、ポアンカレ群に由来するボソン的生成子と、ボソンとフェルミオンを変換するフェルミオン的生成子(超電荷)の2群から構成されます。それぞれの生成子の定義と演算子としての役割は以下の通りです。
ボソン的生成子(偶数次生成子)
ポアンカレ代数に由来する10個のエルミート演算子です。これらは代数の偶数(Even)部分を構成します。
- 時空並進演算子:$P_\mu$(4個)
- 定義:$\mu=0,1,2,3$ (時空の各方向への無限小移動の生成子)
- 物理的意味:
$P_0 = H$(ハミルトニアン / エネルギー)
$P_i = -p_i$(空間運動量) - 性質:エルミート演算子($P_\mu^\dagger = P_\mu$)
- ローレンツ変換の生成子:$M_{\mu\nu}$ (6個)
- 定義:反対称テンソル演算子($M_{\mu\nu} = -M_{\nu\mu}$)
- 物理的意味:
$J_i = \frac{1}{2} \epsilon_{ijk} M_{jk}$ (空間回転の生成子:3個)
$K_i = M_{0i}$ (ローレンツ・ブーストの生成子:3個) - 性質: エルミート演算子($M_{\mu\nu}^\dagger = M_{\mu\nu}$)
フェルミオン的生成子(奇数次生成子)
超対称性を特徴づける4個の実自由度(2個の複素成分)を持つスピノル演算子です。これらは代数の奇数(Odd)部分を構成し、超電荷と呼ばれます。
- 左手系ウェイル・スピノル演算子:$Q_\alpha$(2成分)
- 定義:$\alpha=1, 2$
ローレンツ群の $(1/2, 0)$ 表現に属する複素スピノル$$Q_\alpha \sim \left(\frac12,0\right)$$ - 作用:スピンを $\pm1/2$ 変化させ、ボソンをフェルミオンに変換します。$$Q_\alpha \vert{}\text{Boson}\rangle = \vert{}\text{Fermion}\rangle_\alpha$$
- 定義:$\alpha=1, 2$
- 右手系ウェイル・スピノル演算子:$\bar{Q}_{\dot{\alpha}}$ (2成分)
- 定義:$\dot{\alpha} = \dot{1}, \dot{2}$
ローレンツ群の $(0, 1/2)$ 表現に属する複素スピノル$$\bar Q_{\dot\alpha} \sim \left(0,\frac12\right)$$ - エルミート共役関係:$Q_\alpha$ のエルミート共役として定義されます。$$\bar{Q}_{\dot{\alpha}} \equiv (Q_\alpha)^\dagger$$
- 定義:$\dot{\alpha} = \dot{1}, \dot{2}$
交換関係
基本的な 4次元 $N=1$ 超対称代数の主要な代数関係は以下の通りです。ここで、$\sigma^\mu$ はパウリ行列、$\alpha, \dot{\beta}$ はスピノール添字です。
これらの $N=1$ 超対称代数の交換関係・反交換関係は、ローレンツ共変性と次元解析、およびポアンカレ代数への整合性要請のみから、構造定数の係数を除いて一意的に決定されます。
ボソン-ボソン(ポアンカレ代数)
ポアンカレ代数の時空の並進・回転・ブーストの幾何学的対称性を示します。
$[P_\mu, P_\nu] = 0 -①$
$[M_{\mu\nu}, P_\rho] =i(\eta_{\nu\rho} P_\mu-\eta_{\mu\rho} P_\nu) -②$
$[M_{\mu\nu},M_{\rho\sigma}] = i\left( \eta_{\mu\sigma}M_{\nu\rho}-\eta_{\mu\rho}M_{\nu\sigma}-\eta_{\nu\sigma}M_{\mu\rho}+\eta_{\nu\rho}M_{\mu\sigma} \right) -③$
ボソン-フェルミオン $[P,Q]$
超電荷は時空の位置に依存せず、超対称変換を行っても質量($P^2 = -m^2$)が不変(ボソンとフェルミオンが同質量)であることを表します。
$[P_\mu, Q_\alpha] = 0 -④$
$[P_\mu, \bar{Q}_{\dot{\alpha}}] = 0 -⑤$
ボソン-フェルミオン $[M,Q]$
$Q_\alpha$ はローレンツ変換の下で左手系ウェイル・スピノル表現(スピン $1/2$ 表現)として変換します。ローレンツ代数の2成分スピノル表現における生成子を $\sigma_{\mu\nu}$ とすると、以下の交換関係が得られます。
$[M_{\mu\nu}, Q_\alpha] = (\sigma_{\mu\nu})_\alpha^\beta Q_\beta -⑥$
フェルミオン-フェルミオン $[Q,Q]$
\(Q_\alpha\) はスピノル添字 \(\alpha,\beta\) を持つボース的な量です。一般的には、反対称テンソル $\epsilon_{\alpha\beta}$ と中心電荷 \(Z\) を使って $\{Q_\alpha,Q_\beta\}=\epsilon_{\alpha\beta}Z$ で表せますが、最小の \(N=1\) 超ポアンカレ代数では中心電荷を持ちません。
$\{Q_\alpha, Q_\beta\} = 0 -⑦$
$\{\bar{Q}_{\dot{\alpha}}, \bar{Q}_{\dot{\beta}}\} = 0 -⑧$
フェルミオン-フェルミオン $[Q,\bar{Q}]$
2つの超電荷の反交換積(ボソンとフェルミオンを入れ替える対称性)が時空の運動量(平行移動)を生成することを表します。
$\{Q_\alpha, \bar{Q}_{\dot{\beta}}\} = 2(\sigma^\mu)_{\alpha\dot{\beta}}P_\mu -⑨$
$\sigma^\mu_{\alpha\dot{\beta}} = (I, \vec{\sigma})$
$Q_\alpha$ は左手系 $(\frac{1}{2}, 0)$ 、$\bar{Q}_{\dot{\beta}}$ は右手系 $(0, \frac{1}{2})$ のテンソル積表現に属し、それらの直積は $ \left(\frac{1}{2}, \frac{1}{2}\right)$ です。スピノル添字はパウリ行列 $\sigma^\mu$ により4元ベクトルに変換されます。


