概要
律宗は、戒律の研究と実践を行う宗派で、7世紀の中国で成立しました。日本へは8世紀に伝わり、南都六宗、日本十三宗の1つとなっています。
- 時代:7世紀~
- 宗祖:道宣(どうせん)
- 所依:四分律
4世紀頃の中国において、「十誦律」「四分律」「摩訶僧祇律」などの戒律(四律)が漢訳され、戒律の研究が本格化しました。宗派としては、「四分律行事鈔」を著述した道宣が成立させました。
思想
律宗の宗義は戒律を説くことで、その戒律は止持戒(しじかい)と作持戒(さじかい)の二門に分けられます。止持戒は悪を防ぐ消極的な方法で、五篇(ごひん)に分けられています。作持戒は善を修する積極的な方法で、説戒・受戒などの方法が用いられます。
所依の「四分律」の初めの比丘戒本(びくかいほん)と比丘尼戒本(びくにかいほん)は止持門で、その後の受戒健度(じゅかいけんど)から二十健度が作持門です。特に比丘の二百五十戒と比丘尼の三百四十八戒は具足戒(ぐそくかい)と呼ばれています。
五戒
五戒(ごかい)は在家のために定められた戒律です。
- 不殺生戒(ふせっしょうかい):殺生をしない
- 不偸盗戒(ふちゅうとうかい):盗みをしない
- 不邪婬戒(ふじゃいんかい):不倫などの道徳に反する性行為をしない
- 不妄語戒(ふもうごかい):嘘をつかない
- 不飲酒戒(ふおんじゅかい):酒を飲まない
具足戒
比丘の二百五十戒は以下のような八段に分かれます。尚、比丘尼の三百四十八戒は、波羅夷、僧残、捨堕(しゃだ)、単提、提舎尼(たいしゃに)、衆学(しゅうがく)、滅浄(めつじょう)の七段に分かれます。
波羅夷(はらい)
仏教の中で最も重い罪で、僧伽から追放され再び僧侶にはなれません。淫を犯す、物を盗む、人を殺す、他人を欺くことを禁じています。比丘の四波羅夷は以下になります。
- 淫戒:淫らな行為を行うこと
- 盗戒:人の物を盗むこと
- 殺人戒:人を殺すこと
- 大妄語戒:嘘をつくこと
僧残(そうざん)
波羅夷に次ぐ大罪で、僧の資格の回復はできる。性的快楽を求める、婦人に接触する、猥褻(わいせつ)な言葉を用いることなどを禁じています。比丘の十三僧残は以下になります。
- 故出精戒:淫らな行為をすること
- 触女人戒:女性に接触すること
- 麁悪語戒:女性に淫らな言葉を使うこと
- 歎身索供養戒:女性を誘惑すること
- 媒嫁戒:男女関係を仲介すること
- 無主房戒:広い家に住むこと
- 有主房戒:必要も無く転居すること
- 無根謗戒:根拠も無く悪口を言うこと
- 仮根謗戒:問題をすり替えて悪口を言うこと
- 破僧遺諌戒:破戒の指摘に対抗すること
- 助破僧遺諌戒:他の者の邪魔をすること
- 汚家擯謗違諌戒:他の者を誹謗すること
- 悪性拒僧違諌戒:他の者を戒めないこと
不定(ふじょう)
罪が不定であるものです。女性と2人でいて他人に疑いを持たれることなどを禁じています。二不定は以下になります。
- 屏処不定:人に見えない所で女性と2人になること
- 露処不定:人に見える所で女性と2人になること
捨堕(しゃだ)
捨堕とは、仏教の出家者に課される戒律の内、所有に関する30条からなる罪で、禁止された物を持っていることを指します。余分な衣服、2つ以上の応量器を持つ、三衣を常に身に着けるなどを禁じています。
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- 長衣過限(十日以上所持している三衣以外の衣)
- 離三衣(三衣を離れて夜を過ごすこと)
- 月望衣(布の一ヶ月以上の所有)
- 使非親尼浣故衣(親類でない比丘尼に洗濯させた衣)
- 受非親尼衣(親類でない比丘尼から受け取った衣)
- 従非親在家乞衣(親類でない在家者に乞い求めた衣)
- 過量乞衣(在家者に乞い求めることが可能な衣の過量部分)
- 不受請前乞衣(親類でない在家者が布施を申し出る前に乞い求めた衣)
- 勧二家増衣価(在家者が布施のために用意した衣)
- 過限索衣(許容を超えた要求行為をして得た衣)
- 雑絹絲作敷具(絹が混じった敷具)
- 純黒羊毛作敷具(純黒の羊毛で作った敷具)
- 雑色羊毛作敷具(所定以外の割合で混ぜて作った敷具)
- 減六年作敷具(使用期間が六年を過ぎる前に作られた敷具)
- 不貼坐具(古い坐具の布を切り取った新しい坐具)
- 自担羊毛過限(三由旬以上持ち運んだ布施)
- 使非親尼染羊毛(親類でない比丘尼に洗濯させた羊毛)
- 受畜金銀(受領・貯蓄した金銀)
- 貿易金銀(交易に利用する金銀)
- 種々販売(種々の交易物)
- 畜長鉢過限(十日を過ぎて所持している一鉢以外の鉢)
- 乞鉢(古い傷五ヶ所以上になる鉢)
- 畜七日薬過限(所持期限である七日を過ぎた五種薬)
- 預前受用雨浴衣(熱季の最終月の前に乞い求めた雨浴衣)
- 奪衣(他の比丘に与えておきながら奪回した衣)
- 自乞縷使織師作衣(自分で糸を乞い求め、織師に織らせた衣)
- 勧織師増縷(布施させる前に織師に広厚を勧めた衣)
- 急施衣受畜(作衣時を過ぎて所持ている急施衣)
- 有難蘭若離衣(六夜を過ぎて在家者に預けている衣)
- 廻僧物入己(自分一人が得た僧伽への布施物)
波逸提(はいつだい)
比丘にふさわしくない行為をすることを指します。妄言、飲酒、午後の食事、人を仲違いさせる、大地を掘る、植物を損なうなどを禁じています。
提舎尼(たいしゃに)
食事に関する規定です。静寂な修行の場に食事を持参する、乞食のとき過度な布施をうけることを禁じています。
衆学(しゅうがく)
行儀作法に関する規定です。衣服を正しく着る、戯れ笑わない、歩行のとき跳んだり走ることを禁じています。
滅浄(めつじょう)
僧侶の間の争いを止めさせるを指します。僧侶を集め事実を挙げて裁く、当事者に記録を出させ事実を確認するなどです。
日本の律宗
日本の律宗は、8世紀半ばに道宣の孫弟子である鑑真が伝来させました。鑑真は6度の航海の末に唐から招来され、東大寺に戒壇を開き日本で初めて戒律を授けました。鑑真が伝えたのは「四分律」によるもので、その後、唐招提寺を本拠として戒律研究に専念しました。
明治初期には、唐招提寺を例外として他の律宗寺院は全て真言宗に所轄されましたが、1900年に律宗として独立しました。律宗は、日本十三宗の1つとして今日まで続いています。

