角運動量の合成

/量子力学

角運動量の合成

1電子の全角運動量 ${\bf j}$ は、軌道角運動量 ${\bf l}$ とスピン角運動量 ${\bf s}$ の和として定義されます。

$${\bf j}={\bf l}+{\bf s}$$

昇降演算子を

$$j_\pm=j_x\pm ij_y$$

で定義すると、全角運動量の大きさの2乗(${\bf j}^2$)について、以下の関係があります。

$${\bf j}^2=j_x^2+j_y^2+j_z^2=\frac{1}{2}(j_+j_-+j_-j_+)+j_z^2  -①$$

演算子の交換関係

全角運動量の交換関係は、他の角運動量と同様に以下になることが分かります。

$$[j_x,j_y]=i\hbar j_z  , [j_y,j_z]=i\hbar j_x , [j_z,j_x]=i\hbar j_y$$

$$[{\bf j}^2,j_x]=[{\bf j}^2,j_y]=[{\bf j}^2,j_z]=0$$

昇降演算子 $j_\pm$ については、以下の交換関係があります。

$$[j_+,j_-]=2\hbar j_z  -②$$

$$[{\bf j}^2,j_\pm]=0 , [j_z,j_\pm]=\pm\hbar j_\pm  -③$$

固有関数と固有値

軌道角運動量の固有関数が $\ket{l,m_l}$ で表されることから、全角運動量の固有関数を $\ket{j,m_j}$ で表します。ここで、量子数の関係は、

$$j=l+m_s=l\pm\frac{1}{2}$$$$m_j=m_l+m_s=m_l\pm\frac{1}{2}$$

であるため、固有関数は以下になります。

$$\ket{j,m_j}=\Big|l+\frac{1}{2},m_l+\frac{1}{2}\Big> \mathrm{or} \Big|l-\frac{1}{2},m_l-\frac{1}{2}\Big>$$

全角運動量の大きさの2乗

全角運動量の大きさの2乗(${\bf j}^2$)の固有値は以下になります。

$${\bf j}^2\ket{j,m_j}=j(j+1)\hbar^2\ket{j,m_j}$$

全角運動量の $z$ 成分

全角運動量の $z$ 成分($j_z=l_z+s_z$)の固有値は以下になります。$m_j$ の範囲は{$-j\le m_j\le j$}の $2j+1$ 個です。

$$j_z\ket{j,m_j}=m_j\hbar\ket{j,m_j}$$

昇降演算子

$j_\pm$ は、$m_j$ を1つ上げ下げする昇降演算子としての役割を持ちます。

$$j_\pm\ket{j,m_j}=\hbar\sqrt{(j\mp m_j)(j\pm m_j+1)}\ket{j,m_j\pm1}$$

固有値の導出

$j_\pm$ は昇降演算子

${\bf j}^2$ の固有値を $\lambda\hbar^2$、$j_z$ の固有値を $\mu\hbar$ と置きます。

$${\bf j}^2\ket{\lambda,\mu}=\lambda\hbar^2\ket{\lambda,\mu}$$$$j_z\ket{\lambda,\mu}=\mu\hbar\ket{\lambda,\mu}$$

交換関係②より、

$${\bf j}^2j_\pm\ket{\lambda,\mu}=\lambda\hbar^2j_\pm\ket{\lambda,\mu}$$$$j_zj_\pm\ket{\lambda,\mu}=(\mu\pm1)\hbar j_\pm\ket{\lambda,\mu}$$

これにより、演算子 $j_\pm$ は、${\bf j}^2$ の固有値は変えないで、$j_z$ の固有値を $\pm\hbar$ とする昇降演算子であることが分かります。

$j_z$ の固有値は最大値と最小値をもつ

${\bf j}^2=j_x^2+j_y^2+j_z^2$ であり、$j_x^2+j_y^2$ の期待値は負にはならないため、固有値の関係は $\lambda\ge\mu^2\ge0$ であることが分かります。$\mu$ の最大値を $j$、最小値を $j’$ とすると、昇降演算子との関係は以下になります。

$$j\ge j’  -(1)$$$$j_+\ket{\lambda,j}=j_-\ket{\lambda,j’}=0  -(2)$$

$j_z$ の固有値の最大値と最小値は $\pm j$

交換関係②の期待値を取ります。昇降演算子は $\lambda$ を変えないため、以下の計算では省略します。

$$\braket{\mu|(j_+j_- -j_-j_+)|\mu}=2\hbar\braket{\mu|j_z|\mu}$$$$\braket{\mu|j_+|\mu-1}\braket{\mu-1|j_-|\mu}-\braket{\mu|j_-|\mu+1}\braket{\mu+1|j_+|\mu}=2\mu\hbar^2 -(3)$$

ここで $j_+=j_-^\dagger$ であるため、

$$\braket{\mu|j_+|\mu-1}=\braket{\mu-1|j_-|\mu}^*  -(4)$$$$\braket{\mu|j_-|\mu+1}=\braket{\mu+1|j_+|\mu}^*  -(5)$$

これらを (3) に代入すると、それぞれ、

$$|\braket{\mu-1|j_-|\mu}|^2-|\braket{\mu|j_-|\mu+1}|^2=2\mu\hbar^2  -(6)$$$$|\braket{\mu|j_+|\mu-1}|^2-|\braket{\mu+1|j_+|\mu}|^2=2\mu\hbar^2  -(7)$$

まず (6) について、$\mu=j,j-1,j-2,\cdots,m$ として書き直すと、

$|\braket{j-1|j_-|j}|^2-|\braket{j|j_-|j+1}|^2=2j\hbar^2$
$|\braket{j-2|j_-|j-1}|^2-|\braket{j-1|j_-|j}|^2=2(j-1)\hbar^2$
・・・・
$|\braket{m-1|j_-|m}|^2-|\braket{m|j_-|m+1}|^2=2m\hbar^2$

これらの両辺を足し合わせると、最初の式の左辺第2項は0で、左辺第1項と次の式の左辺第2項は消えるため、結局左辺は最後の式の第1項のみ残ります。

$$|\braket{m-1|j_-|m}|^2=2[j+(j-1)+(j-2)+\cdots+m]\hbar^2$$$$=(j+m)(j-m+1)\hbar^2  -(8)$$

次に (7) について、$\mu=j’,j’+1,j’+2,\cdots,m-1$ として書き直すと、

$|\braket{j’|j_+|j’-1}|^2-|\braket{j’+1|j_+|j’}|^2=2j’\hbar^2$
$|\braket{j’+1|j_+|j’}|^2-|\braket{j’+2|j_+|j’+1}|^2=2(j’+1)\hbar^2$
・・・・
$|\braket{m-1|j_+|m-2}|^2-|\braket{m|j_+|m-1}|^2=2(m-1)\hbar^2$

これらの両辺を足し合わせると、最初の式の左辺第1項は0で、左辺第2項と次の式の左辺第1項は消えるため、結局左辺は最後の式の第2項のみ残ります。

$$-|\braket{m|j_+|m-1}|^2=2[j’+(j’+1)+\cdots+m-1]\hbar^2$$$$=(j’+m-1)(m-j’)\hbar^2  -(9)$$

(8) と (9) の両辺の和を取ると、

$$|\braket{m-1|j_-|m}|^2-|\braket{m|j_+|m-1}|^2=(j+j’)(j-j’+1)$$

左辺に $j_+=j_-^\dagger$ を代入すると0になるため、

$$(j+j’)(j-j’+1)=0$$

(1) より $j-j’+1\ne0$ であるため、$j=-j’$ であることが導かれます。

${\bf j}^2$ の固有値は $j(j+1)\hbar^2$

①の期待値を取り、(4) (5) の関係を使い、最後は (8) (9) により、

$$\braket{m|{\bf j}^2|m}=\frac{1}{2}\braket{m|(j_+j_-+j_-j_+)|m}+\braket{m|j_z^2|m}$$

$$=\frac{1}{2}|\braket{m-1|j_-|m}|^2+\frac{1}{2}|\braket{m+1|j_+|m}|^2+|\braket{m|j_z|m}|^2$$

$$=\frac{1}{2}(j+m)(j-m+1)\hbar^2-\frac{1}{2}(j’+m)(m-j’+1)\hbar^2+m^2\hbar^2$$

従って、以下が導かれます。

$$\braket{m|{\bf j}^2|m}=j(j+1)\hbar^2$$

 

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