理想気体
理想気体とは、圧力が温度と密度に比例し、内部エネルギーが密度に依らない想像上の気体です。より厳密な他の気体モデルは、低密度では理想気体として近似されます。
ボイルの法則
ボイルの法則は、気体の圧力 $p$ と体積 $V$ は反比例するという法則です。比例定数は温度 $T$ の関数となります。
$$pV=f(T)$$
ジュールの法則
理想気体のジュールの法則とは、温度が一定の場合、内部エネルギー $U$ は体積に依存しないという法則です。
$$\Big(\frac{\partial U}{\partial V}\Big)_T=0$$
状態方程式
理想気体の状態方程式は、分子量(モル数)$n$ により以下で表されます。この状態方程式は、ボイルの法則とジュールの法則より導くことが得きます。
$$pV=nRT$$
尚、$R$ は気体定数で、以下の値を持ちます。
$$R=8.314 J/\mathrm{mol}\cdot K$$
ドルトンの法則
ドルトンの法則とは、理想気体の混合気体は、各成分の分圧の和に等しいとする法則です。気体」1と気体2のそれぞれの状態方程式を以下とすると、
$$p_1V=n_1RT , p_2V=n_2RT$$
混合気体の状態方程式は以下になります。
$$(p_1+p_2)V=(n_1+n_2)RT$$
熱力学ポテンシャル
内部エネルギー
理想気体の内部エネルギーは、等積比熱 $C_V$ を積分することにより得られます。
$$C_V\equiv\Big(\frac{\partial U}{\partial T}\Big)_V$$$$U=U_0+\int_{T_0}^TC_VdT$$
混合気体の内部エネルギーは、各気体の内部エネルギーの和として得られます。尚、最後に式は、関係式 $C_p-C_V=nR$ を使っています。
$$U=\sum_in_i\Big(U_{i0}+\int_{T_0}^TC_{Vi}dT\Big)$$$$=\sum_in_i\Big(U_{i0}+\int_{T_0}^T(C_{pi}-nR)dT\Big) -①$$
エンタルピー
理想気体のエンタルピー $H$ は、等圧比熱 $C_p$ を積分することにより得られます。
$$C_p\equiv\Big(\frac{\partial H}{\partial T}\Big)_p$$$$H=H_0+\int_{T_0}^TC_pdT -②$$
混合気体のエンタルピーは、各気体のエンタルピーの和として得られます。
$$H=\sum_in_i\Big(H_{i0}+\int_{T_0}^TC_{pi}dT\Big)$$
自由エンタルピー
理想気体の自由エンタルピー(ギブスの自由エネルギー)$G$ は以下で得られます。ここで、②と④を使っています。
$$G=H-TS$$$$=H_0-TS_0+\int_{T_0}^TC_pdT-T\Big(\int_{T_0}^T\frac{C_p}{T}dT-R\ln{\frac{p}{p_0}}\Big)$$
混合気体の自由エンタルピーは、各気体の自由エンタルピーの和として得られます。ここで、①と⑤と状態方程式を使っています。
$$G=U-TS+pV$$$$=\sum_in_i\Big(\phi_i(T,p)+RT\ln{\frac{n_i}{\sum_jn_j}}\Big)$$$$\phi_i=U_{i0}-TS_{i0}+\int_{T_0}^TC_pdT-T\int_{T_0}^T\frac{C_p}{T}dT+RT\ln{\frac{p}{p_0}}$$
エントロピー
理想気体のエントロピーは、等圧比熱 $C_p$ を積分することにより得られます。
$$C_p=\Big(\frac{\partial H}{\partial T}\Big)_p=T\Big(\frac{\partial S}{\partial T}\Big)_p -③$$
$$S=S_0+\int_{T_0}^T\frac{C_p}{T}dT-R\ln{\frac{p}{p_0}} -④$$
混合気体のエントロピーは、各気体のエントロピーの和に、混合のエントロピー $\Delta S$ を加えたものになります。
$$S=\sum_in_i\Big(S_{i0}+\int_{T_0}^T\frac{C_{pi}}{T}dT-R\ln{\frac{p}{p_0}}\Big)+\Delta S$$$$\Delta S=-R\sum_in_i\ln{\frac{n_i}{\sum_jn_j}} -⑤$$
④を導く
③を積分すると、積分定数 $f$ は圧力 $p$ の関数となります。
$$S=\int\frac{C_p}{T}dT+f(p)$$
この両辺を $p$ で微分して、マクスウェルの関係式と状態方程式を使うと、
$$\frac{df}{dp}=\Big(\frac{\partial S}{\partial p}\Big)_T=-\Big(\frac{\partial V}{\partial T}\Big)_p=-\frac{R}{p}$$
これを積分し、積分定数 $S_0$ 、$p_0$ を適当に選ぶと④が得られます。
$$f=-R\ln{p}+\mathrm{const}$$
⑤を導く
2成分の混合気体の場合を考えます。2つの気体を混合する過程を2つに分けます。断熱系を仮定し、内部エネルギーと温度は一定に保たれるとします。
$$(n_1,p,V_1,T)+(n_2,p,V_2,T)$$$$\to (n_1,p_1,V_1+V_2,T)+(n_2,p_2,V_1+V_2,T) \mbox{※過程1}$$$$\to (n_1+n_2,p,V_1+V_2,T) \mbox{※過程2}$$
過程1では、2つの気体は隔壁で仕切られたまま体積を $V_1+V_2$ に膨張させ、仮定2では、隔壁を取り除き2つの気体を混合させます。エントロピーは、過程1では、膨張に伴い状態数は増えるため増加しますが、過程2では一定に保たれます。
過程1において、気体1と気体2は次のように圧力が変化するため、
$$p \to p_1=\frac{n_1p}{n_1+n_2}$$$$p \to p_2=\frac{n_2p}{n_1+n_2}$$
気体1のエントロピーの変化を④より計算すると、
$$\Delta S_1=S’_1-S_1=-n_1R\ln{\frac{n_1p}{p_0(n_1+n_2)}}+n_1R\ln{\frac{p}{p_0}}$$$$=-n_1R\ln{\frac{n_1}{n_1+n_2}}$$
同様に気体2のエントロピーの変化は、
$$\Delta S_2=-n_2R\ln{\frac{n_2}{n_1+n_2}}$$
尚、等温過程のため、④の第1項と第2項の差は0になります。以上より、
$$\Delta S=\Delta S_1+\Delta S_2$$$$=-R\Big(n_1\ln{\frac{n_1}{n_1+n_2}}+n_2\ln{\frac{n_2}{n_1+n_2}}\Big)$$
これより⑤が成り立つことが分かります。

