量子統計
量子統計とは、量子力学に従う系の統計力学で、フェルミ・ディラック統計とボーズ・アインシュタイン統計の2つがあります。
量子力学において、局所化された2つの同種の粒子は区別することができません。このため、同種の多粒子系の波動関数について、以下の2つの場合のみ、シュレディンガー方程式の解として許されることが分かっています。
- フェルミ粒子(フェルミオン)
系の波動関数は、任意の2粒子の交換に対して符号を変える(反対称)
⇒フェルミ・ディラック統計に従う。 - ボーズ粒子(ボソン)
系の波動関数は、任意の2粒子の交換に対して符号を変えない(対称)
⇒ボーズ・アインシュタイン統計に従う。
フェルミ・ディラック統計
フェルミ・ディラック統計は、相互作用のないフェルミ粒子の系において、1つのエネルギー準位にある粒子数の分布を表します。
フェルミ分布関数 $f$ は、エネルギー準位を $\epsilon_k$、化学ポテンシャルを $\mu$、温度を $T$、ボルツマン定数を $k$ とすると以下で表されます。尚、$n_k$ は1つのエネルギー準位の粒子数の平均、$N$ は全粒子数です。
$$f(\epsilon_k)=\frac{\bar{n}_k}{N}=\frac{1}{e^{(\epsilon_k-\mu)/kT}+1}$$
フェルミ分布関数は $0\sim1$ の間の値をとります。また、$\epsilon_k=\mu$ で $f(\mu)=1/2$ となることが分かります。
高エネルギーの場合
$e^{(\epsilon_k-\mu)/kT}\gg1$ でとなるため、
$$f(\epsilon)\propto e^{-\epsilon/kT}$$
高エネルギーの場合は、マックスウェル分布に近似されることが分かります。
低エネルギーの場合
$\epsilon_k\lt\mu$ の場合は指数の中は負になるため、温度を0に近づけると、フェルミ分布関数は1になります。
$$f(\epsilon_k)=\lim_{T\to0}\frac{1}{e^{(\epsilon_k-\mu)/kT}+1}=1$$
$\epsilon_k\gt\mu$ の場合は指数の中は正になるため、温度を0に近づけると、フェルミ分布関数は0になります。
$$f(\epsilon_k)=\lim_{T\to0}\frac{1}{e^{(\epsilon_k-\mu)/kT}+1}=0$$
尚、このときの $\mu$ はフェルミエネルギー($\epsilon_F$)と呼ばれています。
ボーズ・アインシュタイン統計
ボーズ・アインシュタイン統計は、相互作用のないボーズ粒子の系において、1つのエネルギー準位にある粒子数の分布を表します。
ボーズ分布関数 $f$ は以下で表されます。
$$f(\epsilon_k)=\frac{\bar{n}_k}{N}=\frac{1}{e^{(\epsilon_k-\mu)/kT}-1}$$
ボーズ分布関数も $0\sim1$ の間の値をとります。
分布関数を導く
フェルミ分布関数
量子状態のエネルギー準位を低い方から $g_k$ づつのグループに分け、それに粒子数 $n_k$ を割当てるとします($g_k\gt n_k$)。但し、フェルミ粒子の場合、量子状態を占める粒子の数は1か0です。
これは、$g_k$ 個の箱に $n_k$ のボールを入れる問題で、1つの箱に入れるボールの数は1つまでの場合です。この場合の1つのグループ当りの状態(組合せ)の数は、
$$\frac{g_k!}{n_k!(g_k-n_k)!}$$
全てのグループの状態の数 $G$ は、これの積になるため、
$$G=\prod_k\frac{g_k!}{n_k!(g_k-n_k)!} -①$$
尚、以下の全粒子数 $N$ と全エネルギー $E$ は一定と考えます。
$$\sum_kn_k=N -②$$$$\sum_k\epsilon_kn_k=E -③$$
実際に起こりうるのは最も状態数が多い場合、つまり $G$ が停留値をもつ場合です。まず、①の対数をとり、スターリンの公式($\ln{n!}\cong n\ln{n}-n$)を使うと、
$$\ln{G}=\sum_k\Big(g_k\ln{g_k}-n_k\ln{n_k}-(g_k-n_k)\ln{(g_k-n_k)}\Big)$$
これに変分 $\delta$ をとり、停留値の条件は以下になります。
$$\delta\ln{G}=\sum_k\Big(\ln{n_k}-\ln{(g_k-n_k)}\Big)\delta n_k=0 -①’$$
②と③についても停留値の条件は、
$$\sum_k\delta n_k=0 -②’$$$$\sum_k\epsilon_k\delta n_k=0 -③’$$
②’と③’の条件の下、①’を満たす条件を求めるため、ラグランジュ乗数法を用います。ここで、$\alpha$ と $\beta$ は定数です。
$$\sum_k\Big(\ln{\frac{n_k}{g_k-n_k}}+\alpha+\beta\epsilon_k\Big)\delta n_k=0$$
この括弧の中が0になるための条件は以下になります。
$$n_k=\frac{g_k}{e^{\alpha+\beta\epsilon_k}+1}$$
各グループでの平均を取ると、
$$\bar{n}_k=\frac{n_k}{g_k}=\frac{1}{e^{\alpha+\beta\epsilon_k}+1}$$
古典統計からの類推で $\beta=1/kT$ と置き、条件②を満たすように $\alpha$ を定めます。
ボーズ分布関数
フェルミ粒子の場合と同様に、量子状態のエネルギー準位を低い方から $g_k$ づつのグループに分け、それに粒子数 $n_k$ を割当てるとします($g_k\gt n_k$)。但し、ボーズ粒子の場合、量子状態を占める粒子の数は0から無数にあります。
これは、$g_k$ 個の箱に $n_k$ のボールを入れる問題で、1つの箱に入れるボールの数はいくつでもよい場合です。言い換えると、$g_k-1$ 個の壁と $n_k$ のボールの並べ方を数えることと等しいため、1つのグループ当りの状態(組合せ)の数は、
$$\frac{(n_k+g_k-1)!}{n_k!(g_k-1)!}$$
全てのグループの状態の数 $G$ は、これの積になるため、
$$G=\prod_k\frac{(n_k+g_k-1)!}{n_k!(g_k-1)!} -④$$
実際に起こりうるのは最も状態数が多い場合、つまり $G$ が停留値をもつ場合です。まず、④の対数をとり、スターリンの公式を使い、変分 $\delta$ をとると、停留値の条件は以下になります。
$$\delta\ln{G}=\sum_k\Big(\ln{n_k}-\ln{(g_k+n_k)}\Big)\delta n_k=0 -④’$$
②’と③’の条件の下、④’を満たす条件を求めるため、ラグランジュ乗数法を用いると、
$$\sum_k\Big(\ln{\frac{n_k}{g_k+n_k}}+\alpha+\beta\epsilon_k\Big)\delta n_k=0$$
この括弧の中が0になるための条件は以下になります。
$$\bar{n}_k=\frac{n_k}{g_k}=\frac{1}{e^{\alpha+\beta\epsilon_k}-1}$$
古典統計からの類推で $\beta=1/kT$ と置き、条件②を満たすように $\alpha$ を定めます。

